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合理的な比例学はこれらの境界点相互の距離を測って,その結果から系統を組み立てなければならないというのである.

 ミケランジェロの偉大な言葉があって以来,芸術家は彼等の目のなかに物差しをもっているにちがいないが,すぐ上に述べたことはそれと同時に大きさを測ることの重要性をはなはだよく示すものである.そして最高級の芸術家達は,その中にはもちろんミケランジェロも含まれるが,人体の大きさの比例について深い研究をなすことを怠らなかったというのは全く当然といえる.ここではとくにレオナルド・ダ・ヴィンチとアルブレヒト・ヂューラーの名前をあげておく.

2.人体の性差geschlechtliche Verschiedenheiten des Körpers

 人間は年齢により,個体により,人種および人種のなかの区別により,さらにまた時代によって(何千年も前に生きていた人類は現代のものと全く同じではなかったと思われる)たがいに一定のぐあいで異なっている.これは見てたやすく理解することができる.しかし性差Geschlechtsverschiedenheitとよばれる差異は全く関係が違っていて,あらゆるちがいの中で最も著明なものであり,またもしも人間が他の地球上の生物界に対して完全に独立した立場にあって,他の生物と何も本質的につながりをもたないとすると全く理解できないことであろう.ところが植物界と動物界にはこの点についてもはなはだ重要な手がかりが存在する.この問題についての経験を集めようとすると,その道は単細胞の生物にまで下りてゆく.生物のありとあらゆる変わった方の増殖現象をしらべるときに,研究者の目は鋭くしていなければならない.そうでないと性の問題は闇に閉ざされ,みることができないであろう.

 まず人体の性差について知るのがよい.そのばあい生殖器のことがもちろん第1線に立っている.生殖腺とその他の生殖器が初めは両性に同じ形であらわれて,その後に別々の道を取るようになる.生殖器のちがいがいわゆる一次性差primäre Geschlechtsunterschiedeである.しかしここでは二次性差sekundäre Geschlechtsunterschiede(図145)についてつぎのことを述べておく.

 概して男の体はいっそう力強く,大きくできていて,筋肉と骨組みが外面からいっそうつよくうかがえる.女の体はそれに反して普通はいっそう小さくて,かよわくできており,その外形が円みをおびて,それ自身弱く発達している筋肉と骨組みが良く発達した脂肪層によって包まれて,その輪郭をあまり外面にあらわさない.

 全身がそうであると同じに,女の頭が男のそれより小さくて,頭蓋腔は比較的ぜまく,前頭部が概して低くて,ここで頭蓋骨は円蓋の上部から急に曲がって下方におりている.その前傾がこどもの頭にいっそう似ている.これに反して男の前頭部は力強く発達して,いっそうつよく突出している.

 頭頂部もまた男では女よりもいっそう強く突出している.女の顔面部は繊細であり,頬骨の突出は少なく,顔面の円みがいっそう軟らかである.毛は女の頭では上面と後面,ならびに側面の一部,および眉毛と睫毛にかぎられているが,男ではその他に顔面のひろい範囲まで及んでいる.しかし頭髪の長さは女の方が大きい.

 女の頚部では喉頭が小さくて子供のそれに近いので,喉頭による高まりが全体の円みのなかにかくれている.その円み男の頚部には欠けていて,喉頭の上部と筋肉が皮膚を持ち上げている.女の頚部は側方ではゆるやかな弓状をえがいて肩の高まりに移行するが,男の頚は肩とのあいだが鋭く曲がっている.

 肩幅が女では狭くて,男では広い.女の胸郭はその中の肺が比較的弱く小さいので狭くできている.男の胸郭は下方に向かっていっそう強く広がり,且つ腹部といっそう明瞭に境されている,女ではその境が全体の膨らみのためにみえない.男の前胸壁では大胸筋による高まりが著しくあらわれるが,女ではこの筋は比較的弱くて,左右の乳房が左右で高まるので,その間で胸壁の正中部にへこみがある(Sinus mamarum, Busen).男では乳腺は退化して痕跡的な存在となっている.男の乳房はやはり痕跡的であるが,女のそれよりやや上方の位置を胸壁で示している.女では腹直筋は普通のばあい外から見える高まりをおこさないし,また腹部中央の縦の溝が消えている.しかし前腹壁の全体が強く高まって,とくに下方に向かって円くなり,よく発達した恥丘に達する.しばしば上方に凹をむけた1本の曲線があって,腹部の高まりと恥丘の間を境している.臍は女では男よりも高いところにあり,男の臍はしばしば腸骨稜の高さにある.

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最終更新日13/02/03

 

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