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VI.器官,装置,系統Organe, Apparate, Systeme

1.概括的な序説allgemeine Einleitung

 定義:器官は1種あるいは多種の組織よりなり,定った形をそなえて,一定の機能を営むものである.いくつかの異なる器官によって,機能的にたがいに深くつながったいっそう高次の単位ができている.これが装置Apparatあるいは系統Systemである.

 単細胞の生物でも器官に相当するような設備を全く欠いているわけでない.偽足,絨毛,はなはだ多くの種類の保護用の被い,なおまたいろいろの内部構造が器官に相当するといえる.

 すべての多細胞生物はその機構がいかに高等にできていても,その存在の初めは単細胞生物に相当するものから出発するのである.しかしその発生が進んでまもなくいっそう程度の高い区分ができる.腸胚Gastrulaの時期には2つの原始器官Primitivorganeが生じている.すなわち一次の外胚葉と内胚葉である.原始器官がその後に大小いろいろのあらゆる二次器官sekundäre Organeを作るのであって,比較的高等な動物の体そしてまた人間の体もそんな二次器官を幾百万というほど有っている.

 1個の器官がひどく簡単なものであっても,あるいははなはだ複雑なものであっても,すでに前に書いたことから分かるように,それらがすべて細胞に帰せられるのである.機能の上から云ってもそうである.例えば肝臓の機能はすべてのここの肝細胞のはたらきの総和である.機能の上から云ってもそうである.例えば肝臓の機能はすべてのここの肝細胞のはたらきの総和である.

 器官の形成には分業Arbeitsteilungの原則があらわれている.Aristoteles以来の定義に従えば,1つの器官が雑多なはたらきをするのではなくて,1つの定まった機能を持つことの傾向が多いほど,その器官はいっそう完全なものといえる.また生活体にて機能が多岐に分かれているほど,そして機能をなす諸器官が多種多様であるほど,その生物の有機体としての階級は高いのである.

 上述のごく概括的な関係を知ったのちにさらに有機体の特徴について探求の歩みをすすめるならば,個体の発生がこの研究領域において注目すべき現象をつぎつぎと示すのである.

 発生学が教えるところによると,一時的の器官transitorische Organeがある.それがつくられて,ある器官はたらきをなして,その後にその後に追徴する.そういう器官の一部は投げ捨てられさえする(胎児被膜,臍帯;胎盤).

 特別の器官の第2群は発生の途中で機能の転換Funktionswechselがおこるものであって,すなわち転換器官Wechselorganeである.Wolff官は前腎および原腎の導管であるが,これが形を変えて精管になる.原腎細管の一部は精巣上体の成分に変えるのである

 第3群の器官はその原基が生じて,ある時期までは発生するが,そこで立ち止まって,それよりさらに進んだ段階にいたらない.いわゆる痕跡的器官rudimentare Organeである(精巣垂,精巣上体垂).多くの痕跡的器官は胎児の時代のみにある(尾の原基,顔面およびたい糸における感覚毛Spürhaareの原基,人の胎児の下腹部にみられる袋の原基).Bromas (Anat. Anz., 72. Bd.,1931)はこれらを痕跡的な胎児期官rudimentäre Embryonalorganeとよんだ.以前に痕跡的な器官とされていた数多くのものが,その後の研究によって,はなはだ重要なものであることが分かり,一部は生命に欠くべからざるものとさえなったのである(虫垂,脳下垂体).

 それゆえ成長した人間の体はその発生のあいだに原基のできたすべての器官をもっているのでなく,それよりも器官の数は少ないのである.それが原にもなっているものは,一部は転換器官であり,その他のものが(これがやはり大部分であるが)転換もしない完全器官Vollorganeである.痕跡的器官のも高い形態学上の意味がある.その機能はいかにつまらないものであるにしても,痕跡的器官が存在するときは,それは一定の動物系を指し示しているのであって,その動物ではこの器官が発達した状態にあり,また相当した機能もっているのである.

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最終更新日11/02/23

 

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