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ところで,とり囲まれてできた小腔は重要な意義をもつものである.

 小腔の中には軟骨膜性の組織が,骨芽細胞と,栄養をつかさどる脈管とを伴って存在している.この小腔こそ,前々から述べているハヴァース管の初期のものにほかならない.先に図163で見た頭頂骨の原基の小梁の間にある空隙もまたこれである.この空隙はのちに一部がいわゆる板間層Diploëの広い空隙になるけれども,板間層の広い空隙じしんが,やはりハヴァース管と並べて考えるべきものなのである.図170は人胎児の前腕の骨を横断したところで,この基本的な骨発生過程をさらにはっきりと示している.同心性の突起によって,放射状の突起がすでにたがいにつながりあっているのがみられる.

 放射状突起のつづきとしても,あるいはまた切線状突起の中央すなわち2つの切線状突起の合するところからも,更にあらたに放射状突起が出て,その端がすぐまた同心性の突起の形をとって隣りのものと向かい合っているものもある.それで第1次,第2次,第3次などの放射状および同心性突起を区別できることになる.ついに新しい放射状突起の形成が止むと,骨質はなおしばらく同心性に積み重ねられ,こうして骨を包む層板すなわち外基礎層板が形成される.緻密質の構築をたやすく理解できるように模型的に述べれば,以上のような現象が起こるわけである.しかし基礎層板がそんなに速やかにつくられるとはかぎらないことも直ちにわかることで,基礎層板の形成が場所によっては全く行なわれないことすらある.また骨の吸収現象が基礎層板の厚さの成長と相殺しあうこともある.しかしそのばあいにもなお厚さの成長の原則はまもまれているのである.外力に耐える,細かい構造をもった,力強い骨梁は,この様にして驚くべき単純さで出来上がるのである.まだ広いハヴァース管は,骨質があらたに同心性に積み重なることによって,次第に狭められる.

[図171]骨膜性骨沈着における同心性(切線状突起と放射状突起の模型図)

c)軟骨内骨発生enchondrale Osteogenese (図168~170,173,174)

 軟骨内骨発生の特徴は,軟骨膜(骨膜)から血管を含む栓状の突起が,ちょうどそのころ石灰化した軟骨の部分に向かって侵入することである.この突起の形成にあずかるものは,軟骨膜の最深層(細胞に富んでいてふつう骨芽層osteogene Schichtと呼ばれている)と,軟骨膜中に含まれる血管とである.こうして軟骨膜のこれら2つの最も重要な成分が軟骨の内部に達することになる.こうなればもう,この侵入定着した組織塊全体を軟骨内膜Endochondriumと呼んでさしつかえない.また上述の突起はendochondrale Zapfen(軟骨内膜の栓状突起)と呼んでよいのである.軟骨内膜の突起が近づいてくるにつれて軟骨組織はつぎつぎと融けてゆく.そのために軟骨周囲が骨質の鞘で包まれている部分,すなわち後ろの骨幹にあたる所に,Strelzoffの原始髄腔primordialer Markraumというかなりの空所が生じる.その中には原始骨髄primordiales Markすなわち増殖した侵入組織塊,つまり血管を含む軟骨内膜の組織がはいっている.軟骨内膜の栓状突起はたがいに距離を保って軟骨の両端へ向かって進み,すでに水泡状に膨れた軟骨小腔を解放してゆく.それでこの突起の間に,石灰化した軟骨基質の薄い梁だけがギザギザした突出物の形で残される.この梁は性状や板状をなして,横断ではたがいにつながりあっている.この梁に接して,梁の間にある,血管を含む軟らかい軟骨内膜の組織が,ただちに造骨活動をはじめる.この梁の表面に骨芽細胞が集積し,グルリとその周囲を含んで,すでに梁の各々は,かくして若い骨質の薄層でおおわれ,この層は次第に厚くなる.一歩いう,軟骨内膜の栓状突起は,なおも休まず,軟骨の両端に向かって2団をなして押し進み,その迫り来るところ,軟骨はつぎつぎと消えてゆく.この様なぐあいに両骨端へと前進する軟骨内膜の突起の2つの前線は骨化縁Ossifikationsgrenzeと名づけられている.このときなお軟骨性にとどまる両骨端部は骨端軟骨Epiphysenknorpelとよばれ,中央部は骨幹Diaphyseとよばれる.つまり骨化縁は骨端軟骨の方へたえず前進してゆき,同様に骨化縁の近くで行なわれる軟骨の石灰化も,やはり骨端中央部すなわち骨幹の長さが著しく増してゆく.

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最終更新日13/02/04

 

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