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 もしここに対抗的な現象が起こらなければ,両骨端軟骨は進行してくる骨化縁に間もなく席捲されるとともに,消失してしまうだろう.ところがこれと歩調を合わせて,石灰化した骨化縁の向う側で骨端軟骨が驚異的長さの成長を展開するのである.この成長は長年月にわたって続く.骨化縁の前進もまた長年の間つづき,それと共に骨幹が伸びつづける.骨の長さはこんな風にしてますのである.こうして,もとはごく小さい原基から,大管状骨に見るような,あの巨大な骨の長さができてくる.骨端軟骨の激しい伸長がこの増大の原因である.だから骨端軟骨の伸長が起こらないとか,あるいは骨端軟骨を実験的に両側で切除するとかの場合には,骨原基は伸びる可能性を完全に失って,いつまでも短いままになってしまう.

 骨端軟骨がこんなに早く,休みなく長さを増すときには,もう1つ次のような現象が必然的に伴われる.急速な伸長に応じ,またそのために軟骨細胞が急速な核分裂をするために,軟骨細胞は縦に何本もの列をなして並ばねばならないのである.この上体は軟骨細胞のいわゆるRichtungsphänomen(方向現象)という見事な現象となって現れ,それは図173骨化帯Verknöcherungszoneの一部にはっきり見えている.軟骨細胞柱Knorpelzellensäulenと,その間を埋めて縦走する軟骨基質の梁とがはっきり認められる.この骨化帯の領域では,細胞間物質はすでに石灰化している.軟骨小腔内の軟骨細胞は,石灰化帯においてはだんだんとその生活力を失ってゆく.そして浮腫状を呈すれば,はや崩壊も近い.軟骨内膜の栓状突起とその血管との進むところに,克服すべき大した抵抗はすでになく,軟骨小腔を解放して,その空隙に侵入し,ちょうど軟骨細胞柱のあった場所を進んでゆく.一方基質の梁はいわゆるRichtungsbalken der Verknöcherung(骨化の方向を示す梁)となって残り,後に骨芽細胞の付着に役立つ.

 これまでは骨端軟骨の長さの成長ばかりについて述べて来たが,太さの成長も,たしかにずっとめだたないものではあるが,ないわけではない.骨端軟骨はついには,現にわれわれが多くの大きな関節頭に見るような,あの太さにまで達しなければならないのだから.ふりかえって見ると,いままで観察して来た一連の現象によって,1箇の骨が出来てきたわけであるが,それは骨幹では骨化し,両骨端ではなお軟骨性なのである.骨幹は一部は軟骨外および骨膜性骨発生により,一部は軟骨内骨発生によって形成されたものである.そして骨幹の内部の空所には血管を伴う若い骨髄がはいっている.

 軟骨外骨発生と軟骨内骨発生の量産物は,長い間たやすく区別のつくものである.この点については,図170を見れば,両者の全体的な関係も,それぞれの状況も正しく読み取ることができよう.軟骨内骨発生の領域にみられる紫色の線や網は,おしつけられた軟骨の石灰化した基質小梁に他ならない.その周囲には,ここでは赤く色どられた若い骨質をかぶっている.

 今まで見て来たいくつかの例によって,軟骨内骨発生は,軟骨外骨発生のいわば随伴者として登場するにすぎないのだと思いこむ人もあろう.しかし軟骨内骨発生は,軟骨外骨発生の方がそれに従うことさえもある.

 短い軟骨や,短い軟骨と同じ関係を示す(一方または両方の)骨端軟骨においては,軟骨内骨発生が全く独自に進む.

 この様な短い軟骨では,軟骨膜から血管をもつ突起,すなわちすでに述べたendochondrale Zapfen(軟骨内膜の栓状突起)が,石灰化点をもつ軟骨の内部に侵入する.この軟骨の石灰化点に対して,軟骨内膜の突起は,すでに管状骨の軟骨性の前身の中央部について述べたと同じ態度をとるのである.もっともこの場合は,若い骨原基が1つの中心を囲む放射状の構造を呈するのである.それで軟骨の真ん中に,はじめはちいさいが,まもなく大きくなってゆく,放射状の骨核Knochenkernすなわち骨化点Ossifikationspunktが存在することになる.

 管状骨の骨端軟骨の一方または両方に、それぞれ1つこの様な骨核ができると、骨幹の、長く伸びた大きな骨核との間に、両骨核を分離する軟骨部は依然として骨端軟骨Epiphysenknorpelとよばれて,すでに述べたように骨の長さをさらに成長させる使命をもつのである.骨端の骨核は骨幹の骨核の大きさにくらべると,あたかも付随的な存在のように見えるが,なかなか重要なものなのである.これら両種の骨核のほか、つづいてなおいくつかの副骨核accessorische Knochenkerneが現れることとがある。各部の骨格における骨核の数や,位置や特殊の事情については,もっと後で述べよう.また成長中の個々の骨核がどんな風に癒合して,1個の骨をつくるかについても後にゆずることにする.

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最終更新日11/05/03

 

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