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 は胸骨のもっとも厚い部分である.その上縁は3つの切痕を示しており,真中のものは頚切痕Incisura jugularisと名づけられている.また強い外側の切痕は鎖骨と接する部分であるから鎖骨切痕Incisura clavicularisとよばれる.鎖骨切痕にすぐ隣接して,外側縁の上端にザラザラしたくぼみが1つあって,ここは第1肋骨に接着するで1肋骨切痕Incisura cosalis primaという.次に,柄に外側縁の下端に2肋骨切痕Incisura costalis secundaがある.しかし第2肋骨に対する切痕の下半分は胸骨体の上部に属している.胸骨結合には関節腔が形成されていることが少なくない.

 は前面は胸骨平面Planum sternaleとよばれ,そこには3本の横走する隆起があって,体がもともと4部分より成り,その間に骨結合が行なわれたことを示している.体の後面は柄の後面と同様に,その形が変化に乏しくて平滑である.体の外側面には各側に,第2から第7までの肋軟骨に対する凹窩が,半分のもの1つと,完全なもの5つがあり,肋骨切痕Incisuae costalesと呼ばれる.第6および第7肋軟骨に対する肋骨切痕はたがいに密接していて,第7肋骨切痕は剣状突起のすぐきわめてあり,またしばしばこの突起によっておぎなわれている.このような場合には第7肋軟骨は,剣状突起の前にいくらか伸びてきているのが普通である.

 剣状突起は胸骨の最下部の分節をなし,最も変化に富む部分である.最も単純な形の場合には薄いヘラの形をして,第7肋軟骨の間を下方へ伸びている.しかしフォーク状に分岐していたり,1つの孔で貫かれていたり,前方や後方へ曲がっていたりすることも多い.高年になると,剣状突起は体と骨結合を行う.

 変異:まれにはなお胸骨上骨Ossa suprasternaliaという小さい2つの骨が胸骨柄の上縁にのっているのが見られることがある(胸骨上骨は堀,杉山,織田,竹中らの報告を総合すると,出現率10~17%ぐらいであるが,欧米人では6%以下である.竹中,慈恵解剖学業績集第10輯1953).また剣状軟骨に付属して小さい軟骨片がついていることもある.

 胸骨の発達の程度は個体によって千変万化である.堂々とした広い板状のものから,ほっそりした貧弱な棒状のものまで,その間にあらゆる段階がある.しかし胸骨の長さは胴の長さがかなりの変異性を示す場合でも,平均値からかけ離れることが殆どない(H. Frey1918).また明瞭な人種差は認められない(Stieve, H. およびHintzsche, E. )が,男の胸骨は幅の狭いことが多く,女のそれは幅の広いことが多いという点で,性差はあると言える(Hintzsche, Verh. anat. Ges.,1925).胸骨の下部には人工的に(たとえば靴職人では靴型の圧迫により)ひきおこされた屈曲の見られることがある.胸骨は部分的に,あるいは全長にわたって左右両部に分裂していることがあり,しばしばみられる剣状突起の孔もこの範疇に属する.胸骨の縦裂すなわち先天性胸骨裂Fissura sterni congenitaも,それより程度のひくいものも,すべて同一の理由によって生じるもので,その理由は胎児期に胸骨が軟骨性の2つの半分からなるという事情と結びつけている.肋軟骨の胸骨への付着は(Markowskiによれば)数多くの非対称を示す.左の肋軟骨の方が右のよりも下方で付着しないで,これに代わる突出部すなわち肋骨突起Processus costalesにつくことも少ない. -von Eggeling, Verh. anat. Ges.,1903 und Festschrift fur E. Haeckel, Jena ,1904.-Stieve, H., und Hintzsche, E., Z. Morph. anthrop., 23. Bd.

胸郭Thorax, Brustkorb (図176, 201203)

 胸郭は骨と靱帯との組み合わせできてたものは12個の胸椎,12対の胸肋骨およびその肋軟骨と胸骨,そして複雑な靱帯群である(図201, 202).胸郭は頂部を切り落とした円錐を前後から少し圧平した形をして,内臓を入れる広い場所すなわち胸腔Cavum thoracisをかこんでおり,前後の壁と両側壁,ならびに上下の両口すなわち胸郭上・下口Apertura thoracis cranialis, caudalisが区別される.前壁は後壁より短くて胸骨と肋軟骨でできている.また後壁はそれより長くて胸部脊椎と,肋骨後部の肋骨角までの部分とによってつくられている.そして側壁は肋硬骨の前部からできている.後面には,棘突起が靱帯で結びつけられて縦走の隆起線をなし,さらに横突起の列と肋骨角がみられる.

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最終更新日13/02/03

 

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