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 独立した肋骨は今までに第7~第21脊椎でみられてきた.そしてどの場合にも,その前部の肋骨が集まって,所属の各脊椎および胸骨と共に胸郭をつくるのである.

 胸郭の上端については次の様ないろいろな場合がみられうる:

1. 胸骨に着く肋骨の第1対が第7脊椎に所属する.しかもこの肋骨は全く独立して胸骨に達しているのである.この様な状態は今日までたった1例,アムステルダムでL. Bolkによって見られた.

2. 第7脊椎が1対の肋骨をもっているが,これは胸骨には達しない.胸骨に達する肋骨の第1対は第8脊椎に属している.

3. 胸骨に達する肋骨の第1対が第8脊椎に所属し,第7脊椎には独立した肋骨がない.この状態が圧倒的に高い頻度に見られるために「正常」といえる.

4. 第8脊椎が胸骨に達しない1対の肋骨をもっている.つまり胸骨につく肋骨の第1対は第9脊椎に属する.

 第7脊椎の肋骨のできあがった状態が非常に多様なことは,上に述べたそれぞれの例で,この肋骨が胎児期にどの程度にまで発達しただろうかということを考慮し,さらにその後に肋骨がしばしば退化するということを考えに入れれば理解されるのである.そうすると,当然に次の3群があることがわかる:

1. 胎児期に第7脊椎の肋骨が非常に強く発達していることがあって,その前端が第8脊椎の肋骨の前端と合一して胸骨堤Sternalleisteの形成にあずかっている.しかし多くの場合,この肋骨は中ほどの部分が或る長さだけ靱帯に変り,そのためこの肋骨が胸骨部と脊椎部とに分かれる.そうすると,この胸骨部は成人では短い円錐形の骨片となって胸骨の外側縁に密着している.この肋骨脊椎部は1つ下の肋骨の突出した部分と骨結合または関節によって結合していることもある.

2. 第7脊椎の肋骨がそれほど強く発達していないで,その前端が胎児期に第8脊椎の肋骨と合していることがある.この肋骨の原基がそっくり保たれると,その結果として2頭肋骨ともよばれる形が生じる.また第7脊椎の肋骨が関節形成によって第8脊椎の肋骨から区切られていることもある.

3. 第7脊椎の肋骨が比較的小さくて,胎児期に第8脊椎の肋骨と結合していない.この状態はヒトの胎児では非常にしばしば見られるので正常の状態とみることができる.この肋骨が-通常そうであるように-退化すると,第7脊椎の横突起の前部がそれからできるのである.

 第8脊椎の肋骨が退化する場合にも,第7脊椎の肋骨の退化の場合と同様の諸形があらわれる.

 第7脊椎の肋骨が独立していることは決してしばしば見られるものではないが,第8脊椎の肋骨が退化していることは,それよりはるかに稀である.

 胸骨の体と柄との区切りの位置は,第8,第9,あるいは第10脊椎のいずれの肋骨の付着するところに来ることもありうる.これらの変異は胸郭の上界の変異に左右される.最上部の肋骨が非対称に発達している場合には胸骨の柄と体への区分は起こっていないのが普通である.

 胸骨体と結合する肋骨のうちで最下位のものは第13第14,あるいは第15の脊椎に所属する.このさまざまな状態はすべての胸郭の上界が「正常」なときにも起こりうるもので,それにつれて胸骨に付着する肋骨が6対,7対あるいは8対存在することになる.第13脊椎の肋骨が,胸骨に達する最下位の肋骨であるということはごく稀である.この点について検べられた83屍体のうちで,上に述べた状態はわずかに1体に,しかもその1側で見いだされただけであった.胸骨に付着する肋骨が7対(最下対は第14脊椎に)のことは全例の約92%に認められる.また胸椎に付着する肋骨が8対のことは全例の約7%である. E. Rosenbergの記載した1例の新生児では,第16脊椎の右肋骨が胸骨と直接に結合し,そのかわり第8脊椎の肋骨は胸骨に達していなかった.

 第17脊椎の肋骨は浮遊肋骨をなすことが断然多く,それ以下の肋骨はほとんど常にそうである.

 独立した肋骨の最下位のものは第18,第19,第20,あるいは第21の脊椎に付属しうる.肋骨をもつ最期の脊椎のが第18脊椎であることは稀にしかない.これに対して第19脊椎のことは全例の約92%に認められ,それゆえにこれが正常といえる.また第20脊椎が最期の肋骨をもつことは全例の約8%で,これに対し第21脊椎がそれである場合はごく稀である.

 胸郭の下界がこの様にさまざまな状態を示すのに関連して,これに関与する肋骨の長さもまた,もちろん非常に高度な多様性を示す.

 肋骨をつけている最下位の脊椎と,腸骨と関節をつくる最上位の脊椎との間に存在する腰椎の数4, 5あるいは6個である.

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最終更新日13/02/03

 

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