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頚静脈窩のなかには乳突小管溝Sulcus canaliculi mastoideiとう溝が走っており,そこに乳突小管Canaliculus mastoideusという,迷走神経耳介枝のためめの管の入口がある.だらにその前前方で少し内側に頚動脈管の外口Apertura externa canalis coroticiがあって,内頚動脈などを頭蓋腔に導き入れる頚動脈管Canalis caroticusへの入口になっている.また頚動脈管の内口Apertura interna canalis caroticiは斜めに切り落とされた形で,錐体部の前稜の錐体尖の近くにある(図231).

 頚静脈窩と頚動脈管の外口との間には,浅い錐体小窩Fossula petrosaがあって,これが鼓室小管Canaliculus tympanicusであって,その下方へ開く口は容易に認められ,鼓室小管の外口Apertura externa canaliculi tympaniciという.錐体小窩とならんでその内側に,頚静脈窩の前に三角形のくぼみがあって,その底には蝸牛小管Canaliculus cochleaeが開口し,そこを蝸牛小管の外口apertura externa canaliculi chochleaeという.

 錐体の大脳面と小脳面とが合するところは,錐体稜Crista pyramidisとい鋭い稜線をなしている.この稜線の上には錐体稜溝Sulcus cristae pyramidisとう溝が走っている(図229).この溝は上錐体静脈洞を容れるためのもので,外側へ進んで乳突部の大きなS状洞溝Sulcus sigmoidesに達する.小脳面の下縁をなす稜は,その下面にやはり溝をもっており,これは錐体溝Sulcus petrosusとよばれる.この稜には頚静脈切痕Incisura jugularisがあって,ここにはしばしば[頚静脈]孔内突起Processus intrajugularisが見られる.(図215).錐体の尖端すなわち錐体尖Apex pyramidisには頚動脈管の内口があり,この間の外側壁には筋管総管Canalis musculotubalisの開口がある.この筋管総管の中をのぞいてみると(図231),筋管総管中隔Septum canalis musculotubalisというかなり幅のある骨の小板が水平に伸びてこの管を2つに分けている.すなわち上の方のは鼓膜張筋を容れるための鼓膜張筋半管semicanalis musculi tensoris tympaniで,下の方のは耳管骨部の通る耳管半管Semicanalis tubae pharyngotympanicaeである.前稜には錐体鱗裂Fissura petrosquamalisと錐体鼓室裂fissura petrotymanicaがある(図228).

 外側面すなわち錐体の鼓室面Facies tympanica pyramidisは鼓室の内側壁を形成する.これについては聴覚器の項で述べることにする.

 頚静脈窩の深さは非常にまちまちである.これはそのがわの横溝およびS状洞溝がどの程度強く形成されているかに左右される.(横溝とS状洞溝はふつう右の方が大きいが,左の方が大きいこともある.)全く浅い頚静脈窩があるかと思うと,極度に深くなって,その壁が中耳の中に丸くふくれて突出していることもある.

 乳頭小管Canaliculus mastoideusの存否および位置の変位が数多く見られることは,新生児ではまだ迷走神経の耳介枝が骨の外にあって,後になって初めて骨質にとり囲まれるという事実から説明される(Frohse).側頭骨の錐体尖から鞍背の外側稜へ蝶形錐体靱帯Lig. sphenopetrosumが張っている.これについてはVoit(Anat. Anz., 52. Bd. )およびWegner (Anat. Anz., 53. Bd. )がかなりくわしく記載している.

 乳突部Pars mastoideaの外面はいくつもの筋が付着するために,その大部分が粗面をなしており,外耳孔のうしろで下方へ伸びだして乳様突起Processus mastoidesとよばれる乳頭状の突起をなしている(図228).後頭骨と結合する縁は後頭縁Margo occipitalisという.

 乳様突起は内側面では乳突切痕Incisura mastoideaによって深く切れ込んで,その中から顎二腹筋の後腹が起こる.その内側には後頭動脈溝Sulcus arteriae occipitalisがある.乳突部の内面には深いS状洞溝Sulcus sigmoidesがみられ,これは乳突部が錐体部と合する角の中を走って,脳硬膜のS状静脈洞を容れる溝の一部をなしている.大きさと数の一定しない導出静脈が,ふつう乳突部の後縁の近くで骨を貫いてS状洞溝に開口する.これを乳突孔Foramen mastoideumという.乳突孔は時どき咬頭乳突縫合に開口している.乳突部の上縁と鱗部の上縁とは,頭頂切痕Incisura parietalisという切れ込みによって分かれている(図228, 229).

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最終更新日13/02/03

 

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