Band1.164   

上縁は巻きこんだようになっていて,外側でその上へ側頭鱗の一部が突き出ており,それと鼓室部との間に鼓室蓋稜Crista tegmentalisという骨質の堤がはさまれている.こうして錐体鼓室裂Fissura petrotympanicaと錐体鱗裂Fissura petrosquamalisという2つの裂隙が生じるのである(図228).そのうち錐体鼓室裂の方が重要なもので,鼓室に通じて鼓索神経Chorda tympaniを通しており,さらにツチ骨の長突起とツチ骨長突起靱帯とを容れている.これと反対側にある鼓室部の骨板の下縁は鋭い稜線をなして鼓室稜Crista tympanicaとよばれ,その内側面に茎状突起の基部が接している.鼓室部と乳突部との境には鼓室乳突裂Fissura tympanomastoideaがあり,その中に乳突小管Canaliculus mastoideusの外口が開いている.鼓室部の内面は凹面をなし,その奥に鼓膜のつく鼓室溝Sulcus tympanicusというきれいな溝がある.新生児では外耳道がなく,鼓室部は鼓室輪Anulus tympanicusという弓状の骨部をなしている.その前端は大鼓室棘Sina tympanica major,後端は小鼓室棘Spina tympanica minorとよばえ,それぞれ自由端をなして側頭鱗の下縁に接し,両端の間に側頭鱗の鼓室切痕Incisura tympanicaを残している(図224).

鱗部Pars squamalis

 側頭鱗Squama temporalisは凹の内面をもつ円板状の骨板であって,側頭面Facies temporalisおよび大脳面Facies cerebralisの2面が区別される.側頭鱗は頭蓋の側壁を,頭頂骨と蝶形骨のあいだで補っている.そしてこれらの骨と結合するところが頭頂縁Margo parietalisと蝶形縁Margo sphenoideusである.

 側頭鱗の縁の大部分は内面をそがれて鋭いへりをなしているので,内面より外面の方がかなり広くなっている.蝶形骨の大翼に接する蝶形縁だけが鋸歯状の縁をなしている.内面すなわち大脳面Facies cerebralisには脳回圧痕Impressiones gyrorumや脳隆起Juga cerebraliaがあり,また縁の前部と平行して中硬膜動脈のための溝がある.外面すなわち側頭面Facies temporalisはその上部がやや弯曲しており,側頭筋がここで起こるために粗面をなし,外耳孔の近くには上行する血管溝があって,これを中側頭動脈溝Sulcus arteriae temporalis mediaeとう.側頭面は側頭窩の壁の一部をなしている.前方へ1本の長い突起が伸び,これを頬骨突起Processus zygomaticus, Jochfortsatzという.この突起はねもとのところでは幅広くて,上下の両面をもっているが,それより先の方では細くなり,その上ねじれて内側面と外側面および上稜と下稜がはっきりしてくる.上稜は鋭くて,最も前方まで突き出ている.前端は斜めになってギザギザがあり,頬骨と結合している.頬骨突起は後方へ,臨床上重要な側頭線Linea temporalisに移行している.その下には外耳孔の後上隅に,[外耳]道上棘Spina supra meatumが80%において存在する.

 下方から観察すると,頬骨突起の基部に関節結節Tuberculum articulareがみられる.関節結節のうしろに続いて,左右の方向にのびた卵円形のくぼみがある.これが下顎骨に対する関節窩で,下顎窩Fossa mandibularisとよばれ,これをおおう軟骨は関節結節の表面に直接つづき,こうして1つの丘稜状の関節面がつくられている.この関節窩のうしろにつづいて関節後突起Procewssus retroarticularisという高まりがあるが,これは通常低くて,個人によって発達の程度を異にしている.さらにそのうしろに,外耳道と関係してその天井をなす,側頭鱗の重要な部分が続いている.この部分は下顎窩と同様にへこんでいて,奥の方へ(鼓室へ向かって)では,鼓室切痕Incisura tympanicaをなす縁に終わっている.

 側頭鱗には前上方に1つの突起が出て,前頭骨に達し(側頭鱗の前頭突起Processus frontalis squamae temporalis),蝶形骨の大翼を頭頂骨からおし隔てていることがある.この突起は高等人種よりも下等人種に多くあらわれる.

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最終更新日13/02/03

 

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