Band1.172   

 上顎洞には4つの陥凹があり,それぞれ上顎骨の各突起に対応している.すなわち頬骨陥凹Recessus zygomaticus,前頭陥凹R. frontalis,口蓋陥凹R. palatimis,歯槽陥凹R. alveolarisである.そのうちで最も重要なのは凹面をなす歯槽陥凹で,それはここが上顎洞の底になっているからである.その最も低い個所は第1大白歯の根に当っている.上顎洞の底はこの所から前方へは比較的急な傾斜で,後方へはゆるい傾斜で高くなって,犬歯の歯槽がほとんど常に上顎洞の前に位置を占めるようになっている.犬歯の歯槽が上顎洞内に突出している例もないわけではないが,普通は小臼歯の歯槽さえも上顎洞の底から少しはなれているのである.しかし小臼歯と大臼歯の根が紙のようにうすい骨質の層だけに包まれて上顎洞内へ多少とも長く突出していることがある.これらの事実は臨床上大きい意味をもっている.上顎洞の広い開口は近在の骨によって狭められている.それは篩骨の鈎状突起,口蓋骨の一部,および下鼻甲介の一部である(図270).

 上顎骨の前面と側頭下面との内面には歯槽管Canales alveolaresという細い溝や管が走っている.

 上顎骨の前頭突起Processus frontalis,Stirnfortsatzは上顎体の前内側部から上方, 同時にやや後方へ向って伸びている.前頭突起の面はひとつづきに体の前面と鼻腔面に移行している.

 前頭突起の前縁は鼻骨と結合するために凹凸がある.

 後縁は鋭い2本の稜に分かれており,そのうちの後方のものは涙骨縁Margo lacrimahsであって涙骨と結合し,外側のものは前涙嚢稜Crista lacrimalis anteriorであって,自由縁になっており涙骨縁とともに涙嚢溝Sulcus lacrimalisを抱いている.前涙嚢稜の下端のすぐうしろで上顎体の眼窩面の内側縁が半月形にきれこんで涙骨切痕Incisura lacrimalisをつくっている.涙骨と下鼻甲介によって,涙嚢溝の下部は鼻涙管Canalis nasolacrimalisという骨性の管になっているが,上部では涙骨と前頭突起との涙嚢溝か涙嚢窩Fossa sacci lacrimahsをなしている.前頭突起の内面には上半部に篩骨稜Crista ethmoideaという斜走する隆起がみられ,篩骨の中鼻甲介がここに接する.

 上顎体の外面と眼窩面とが外側で合するところに,短くて広い三角形の頬骨突起Processus zygomaticusが出ている.この突起の下のかどから,表面の滑かな1本の隆起が上顎体の外面をまっすぐ下へ伸びている.これが頬骨下稜Crista infrazygomaticaで,前に述べたように上顎体の外面を前面と側頭下面とに分けているのである.

 頬骨突起のうしろの角は下眼窩裂の前縁をなしていることが普通である.頬骨突起の内側の角は最も特異な状態を示し,眼窩下突起Processus infraorbitalisという特別の突起をつくっている.この突起は眼窩下溝の前部を上から被って,これを眼窩下管という管に変えている.眼窩下縫合Sutura infraorbitalisという縫合が眼窩下孔からはじまって,上顎体の眼窩面を通って眼窩下管の初まりのところまで伸びている.

 歯槽突起Processus alveolaris,Zahnfortsatzは,その自由縁すなわち歯槽縁Margo alveolarisが抛物線状に弯曲し,歯根を容れる歯槽Alveoli dentalesと歯とを,各突起について7つないし8つもっている.歯槽突起の外面には各々の歯槽に相当した高まりがあって歯槽隆起Juga alveolariaとよばれる.そのうち犬歯のそれが最も長い.各歯槽のあいだにある骨質のしきりは槽間中隔Septa interalveolariaとよばれる.また歯槽の中にある骨質のしきりが,歯槽をいくつかのポケットに分けているときには,槽内中隔Septa intraalveolariaという.また歯槽の内面にある低い隆起線をAlveolenrippen(歯槽の肋脈の意)という.

 上顎骨の突起の最後のものとして口蓋突起Processus palatinus,Gaumenfortsatzがある.他側の口蓋突起とともに骨口蓋の3/4をなすものである.

 この突起の後縁は上顎体や歯槽突起ほどに後方まで伸びておらず,口蓋骨の口蓋板におぎなわれて初めて骨口蓋が完成するのである.内側縁はデコボコしていて他側の口蓋突起と正中口蓋縫合Sutura palatina medianaによって結合している.

S.172   

最終更新日13/02/03

 

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