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 うしろの突起は関節突起Processus articularis,Gelenkfortsatzで,下顎小頭Capitulum mandibulae,という関節頭を,下顎頚Collum mandibulaeというくびれた部分のさきにつけている.下顎小頭の下には関節突起の翼突筋窩Fovea pterygoidea processus artcularisというくぼみが前方へ寄って存在し,外側翼突筋の付着部をなしている.

 関節頭は左右の方向に強くのびていて,楕円体の関節面をもっている. 関節頭の内側端はうしろへ後退しているので,左右の両関節頭の長軸を延長させると,大後頭孔の前縁のところで相交わるようになっている.

 歯槽部Pars alveolarisの歯槽Alveoliと槽間および槽内中隔Septa interalveolaria et intraalveolariaについては,前に(172頁)上顎骨の項で述べたのと同じことである.最も奥の大臼歯のうしろには臼後三角Trigonum retromolareがある.

 年令による差異:下顎歯の前縁は歯槽部の縁に対しており,直角に近い角度をなしており,その両辺はたがいに弓状をなして移行している.これに反して下顎枝の後縁は体の下縁と約120°の角度をなし,小児期には140°あるいはそれ以上である(図256).歯のない老人の下顎では,この角度がふたたび大きくなる.高年の人でしかも歯を失ったあとでは,歯槽突起は多少の差はあるがぼ完全といってよいほどに消失してしまい,これは上顎骨の歯槽突起でも同じことである(図258).

 オトガイ隆起は年令の進むにつれて前下方へ移動する著しい傾向を示し,下縁に向って垂直に下降することも少なからずあり,完全になくなっていることすらある.ところが下顎の前面はこれと反対に下後方へひっこむ傾向を示し,その下話は臍隆起より突出することなく

次第に後退してゆく.こうして下顎骨の人間らしい形が失われて,動物のそれを思わせる形になるのである.

d)臓弓性骨格の原始骨(置換骨)
α)鼓室小骨:ツチ骨Malleus,キヌタ骨lncus,アブミ骨Stapes

これらの骨については感覚器の項で述べる.

β)舌骨Os hyoides,Zungenbein(図261)

 舌骨はU字形で,舌の底に接して存在し,オトガイと喉頭との間で,頚のひっこんだ角のところに触れることができる. 1つの体と2対の角があって,後者は相ともに後方へ開いた大きい弓状部をつくっている.

 中央部の舌骨体Corpus ossis hyoidisは水平におかれた,舟のような形の骨板で,そのふくらんだ面が前上方に向き,へこんだ面が後下方へ向っている.上縁は薄くなり尖っているが,下縁は厚くなっている.円くふくれた前面には弓状にまがって横走する1本の隆起線がある.この隆起線の中央に縦の方向の1本の隆起線がはっきりみとめられることがあり,そのために力づよく発達した舌骨では,明瞭な十字のかたちがここにみられる.

 大角Cornua rnajoraは体より長いけれども,それより細い.体の両側から後方へつき出て,そのさきは小さい丸い頭になって終わる.

 小角Cornuaminoraはこれに反して短くて円錐形で,長いあいだ軟骨性にとどまり,体と大角との結合部から後上方へつき出ている.小角はかなりの年配にいたるまでその結合が可動性であって,茎突舌骨靱帯Lig. stylohyoideumの付着するところをなしている.小角はこの靱帯の中を上方へ伸びていることがあり,ごく稀にはずっと伸びて茎状突起にまで達していることさえある.

 小角は体の外側縁と関節により,あるいはしばしば単に結合組織性に結合している.大角と体との間に関節が存在することは稀であって,たいていは線維軟骨で,まれには硝子軟骨で結合されている.

 茎状突起が茎突舌骨靱帯の中を長く伸びて来ていることがある.またこの靱帯の中央部が骨性のこともあり,このような場合は茎突舌骨骨Os stylohyoideumという新しい骨が,ほかの骨に加わることになる.たいていの動物ではこの靱帯の大部分が骨性である.この靱帯が舌骨の小角に付着することはすでに述べた通りである.v. Eggeling(Jen. Z. Naturw., 53. Bd.,1914/15)は舌骨の大角までもが茎状突起と結合している1例を記述している.

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最終更新日13/02/03

 

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