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 鈎状突起と平行してその上方に,前篩骨洞のうちで位置と大きさのために目だつところの篩骨胞Bulla ethmoideaがある.篩骨胞はその形がツバメの巣によく似ているが,やはりそれにも変異が無数にある.篩骨胞と鈎状突起とのあいだに半月裂孔Hiatus semi1unarisという鎌形のすきまがある.半月裂孔は骨標本において上顎洞に通じるすべての開口のうちで,軟部をつけたままの標本にまで残る唯一のものであって,鼻腔と上顎洞とを結合する篩骨漏斗Infundibulum ethmoideumというロート形の管の鼻腔への開口をなしている.ところが篩骨漏斗は粘膜の被いによって初めてつくられるものであるから,骨鼻腔の壁には見られない.

 前頭洞は半月裂孔により,あるいは篩骨漏斗の中へ,あるいは(約半数例で)篩骨漏斗の前で,中鼻道に開口する.中鼻道にはさらに前篩骨洞が開くが,後篩骨洞は上鼻道に開くのである.

 蝶篩陥凹の後壁は蝶形[骨]洞口Apertura sinus sphenoideiを有し,また前壁は篩骨迷路によってつくちれている.蝶形[骨]洞口の位置は非常にまちまちで,正中線のすぐわきにあることもあれば,全く外側へ寄って蝶篩陥凹の奥深くにあることもあり,あるいほこれら両極端のあいだのどこかに位置を占めることもある.しかし同時にその位置は,たいてい鼻腔の上壁のすぐ下方である.

 蝶篩陥凹の下には翼口蓋孔Foramen pterygopalatinumがある.その周壁は口蓋骨の眼窩突起と蝶[形]骨突起ならびに蝶形骨体によって形成され,鼻腔から翼口蓋窩に通じも孔である.この孔は神経と血管の通路になっているが,軟部をつけた標本では完全に閉じている.

 鼻腔の前後と上下のひろがりは相当に大きいが,横径はとくに上部で小さくて,そこではかなり狭くてすきまのように見えるほどである.鼻腔は左右それぞれ4つの側面をもち,その上外側のすみはやや角がとれて円くなっている.鼻腔の中央の幅は1.4~l. 8cmである.高さは中央では4.5cmであるが,前とうしろでは一部は上壁の形により,一部は底が前方で高くなっているために,それよりずっと小さい.

鼻甲介Conchae nasalesについて

 すべての脊椎動物の嗅覚器は,とくに著しく退化していない限り,その内部の表面をうんと広くしようと努めている.水中で呼吸する動物においては,それは嗅覚にのみ役だっている.器官そのものをひどく大きくするようなことはせずに,嗅神経の枝のためにできるだけ広い面をあたえねばならないので,表面が高まりやひだや溝をなして複雑な形になっているのである.ところが空気呼吸をする動物では,鼻腔は呼吸にも役だつのであって,それは空気が鼻腔を通過するときに濾過され,湿気があたえられるからである.そしてこの第2の機能も緻密な濾過器をつくるために表面を拡大しようという方向にはたらくのである(K. Peter).

 哺乳動物およびヒトの鼻腔では壁に凸出している隆起部が鼻甲介Nasenmuschelnとよばれ,それらの間の溝が鼻道Nasengängeとよばれる.

 比較解剖学は従来, 鼻甲介の形態学的な意味を究めようと努力して来たが,Peterの研究によれば,この問題については比較発生学が最も大切であるといえるのである.

 鼻腔の外側壁は次のように形づくられる. まずごく早期にいくつかの溝(主溝Hauptfurchen)が生じ,それらによっていくつかの隆起(主甲介Hauptmuscheln)が区切られる.さらに主甲介の上に二次的な副溝Nebenfurchenがつくられて,主甲介がいくつかの副甲介Nebenmuschelnに分けられることがある.同様にして主溝のくぼみの中に副甲介ができてくることもある.これらの溝の底はどれもみな伸びだして副鼻腔をつくる可能性をもっているから,副鼻腔は極めてさまざまの場所に生じ得るのである.

 哺乳動物における鼻甲介のならび方はヒトのそれとはひどく違っているので,両者の相同性をきめることは非常にむつかしい.

 哺乳動物の鼻腟の前方の部分には2つの隆起があり,下方にあって上顎骨に乗つているのが上顎甲介Maxilloturbinale, 上方にあって鼻骨と隣接しているのが鼻骨甲介Nasoturbinaleである.両者のうしろには篩骨から数の一定しない篩骨甲介Ethmoturbinaliaが突出している.

 ヒトでは鼻口部が短縮し篩板が水平位を占めるために,篩骨甲介が上頚甲介の上へ押しやられており,また鼻骨甲介は退化して鼻堤Agger nasiというごく平らな高まりになっている.

 ヒトの下鼻甲介は哺乳動物の上顎甲介に相当するものである.哺乳動物でたいてい3~4個みられる篩骨甲介は,ヒトでははじめ2~3個できかかるが,できあがるのは2個だけで,中鼻甲介と上鼻甲介がそれである.最上鼻甲介は上篩骨甲介の副甲介で,二次的に副溝によって区切られたのである.

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最終更新日13/02/03

 

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