Band1.205   

 比較解剖学の教えるところによれば,肩甲骨と鎖骨の結合というかたちでの哺乳類の上肢帯は二次的なものと考えるべきである.

β)自由上肢の骨Ossa extremitatis thoracicae liberae

1. 上腕骨Osbrachii, Oberarmbein = Humerus(283, 284,287,288,361)

 上腕骨の上端部には内側にほず半球状の関節頭すなわち上腕骨頭Caput humeri, Oberarmkopfがあって,これは解剖頚Collum anatomicumという輪状の溝によって,この骨の残りの部分から表面的にわけられている上腕骨頭の外側には1つの強く突出した部分があってこれを大結節Tuberculum majusという.その前方には縦走する深い溝にへだてられて小結節Tuberculum minusがある.

 両結節にはそれぞれその側方の粗面と,上部の滑かな面とが区別される.すなわち大結節の上部の滑面は上・中・下の3領域を示し,それぞれ棘上筋群,棘下筋群,小円筋の付着部になっている.また小結節の上部の滑面には,肩甲下筋の付着する領域が1つあるだけである.両結節のあいだには結節間溝Sulcus intertubercularisという溝があって,ここを上腕二頭筋の長頭の腱が通る.両結節の下方の部分を外科頚Collum chirurgicumとよぶ.大小の結節からそれぞれ1本の隆起線が骨幹へのびている.これが大結節稜Cristatubercul'imajorisと小結節稜Crista tuber culiminorisであって,前者には大胸筋,後者には広背筋と大円筋が付く.

 上腕骨の骨幹は上腕骨体Corpus humeriとよばれ,上部ではほぼ円柱状であるが,下部では3面をもっている.上腕骨体のおよそ中央には,その外側面に大きい三角筋粗面Tuberositas deltoideaがあって,三角筋の付着部をなしている.同じく外側面で,その下方に1本の浅い溝が走っている.この溝はうしろからラセン状に外側面へ伸びて,まもなく消えてしまうもので,橈骨神経溝Sulcus nervi radialisとよばれる.内側面には1つの大きい栄養孔があって,下方へ走る管に通じている.

 上腕骨体の三角柱状の下端部には2つの鋭い稜すなわち尺側緑Margo ulnarisと橈側縁Margo radialisがある.下端の結節状の関節頭は上腕骨顆Condylus humeriとよばれ,形態を異にする2つの部分すなわち外側の上腕骨小頭Capitulumhumeriと,内側の上腕骨滑車Trochlea humeriとからなり,両者のあいだに1本の溝が走っている.滑車はその中央の近くに導溝Führungsrinneをもっている.

 滑車の上方の前面に烏口窩Fossacoronoideaとよばれる著しいくぼみがあって,腕を強くまげるときに尺骨の烏口突起をいれる.小頭の上方には同じく前面に浅い橈骨窩Fossaradialisがある.後面には深くて広い肘頭窩Fossa olecraniがみとめられ,腕を伸ばすとき肘頭がここにはいる.肘頭窩の底は烏口窩のごく近くにまで来ていて,ここに孔ができていることもある.

 上腕骨顆の両側には結節状のたかまりが出ている.内側へ出ているものの方が大きくて,同時に多少うしろに向っており,橈側に出ているのはずっと小さい.これをそれぞれ尺側上顆および橈側上顆Epicondylus ulnaris, radialisと呼ぶ.両上顆は上方では上述の上腕骨体の尺側縁と橈側縁につづいている.尺側上顆の後面には尺骨神経溝Sulcus nerviulnarisという深い溝があって,尺骨神経がここを走る.

 尺側上顆の上方に顆上突起Processus supracondylicusという突起がかなりの例にみられる

(Adachiによればヨーロッパ人で1%,以外の人種で0.4%) (日本人では極めて稀とされている.)この突起から1条の靱帯が尺側上顆に達し,これが円回内筋の起始となっている.この突起のしろを上肢最大の神経,正中神経が前方へ走っている.これに相当する上腕骨顆上孔Foramen supracondylicum humeriは多くの動物で常在し,たとえばネコがそうである.

  各稜の走向は上腕骨の長軸を中心としたねじれを示している.すなわち下端部は上端部に対して180°(日本人では男150°, 女160°(鈴木・小金井・宮本による).この角度は未開人で小さく,胎児でも小さいという.宮本博人, 人類学雑誌14巻219~305頁.),中央では160°ねじれており,下端部のもと前面であったところが今は後面をなし,前に外側にあった上顆が内側すなわち尺側に位置を占めるといったぐあいになっている.

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最終更新日13/02/03

 

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