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7. 種子骨Ossasesamoida, Sesambeine

 1対の種子骨一すなわちの末端部や関節包の壁の中に埋もれている小さい骨一が母指の中手指節関節のところに常在する.その他の指のこれと同じ場所では,示指と小指に最もしばしば同様の骨つまり種子骨が認められる.しかしここでは種子骨が2つでなく,1つだけ存在することもある.

 Galenosは母指中手骨Os metacarpeum pollicis を母指の基節骨であると考えた.Vesaliusその他多数の人たちもこれに賛同した.発生学的にみても人の第1中手骨は基節骨のような態度をとる.ところが哺乳動物では第1中手骨の発生のしかたは他の4つと同様であり,その上この状態が人でも時おりみられるのである.さらに筋肉の関係からみてもGalenosの説があやしくなる.母指の末節骨がむしろ中節骨+末節骨なのである.

 3つの指篩骨を有する母指をもつ1家族をH. Rieder(1900)が記載している.この家族は8人で,両親と子供6人である.夫人とその子供2人すなわち13才の娘と7才の息子には奇型がない.夫とその長子(1度目の妻が生んだ19才の娘),それから12才の娘と11才の娘,4才の男児(これらはみな2度目の妻から生れた)は3節の母指をもっている.母指の中節骨はよく発達しているのや退化的なのや,実にさまざまの段階のものがみられる.父親のよりも,むしろ19才の娘のが最も顕著なものである(図297).注意すべきことには,痕跡的な中節骨にはけっして骨端部を認めることが出来なかった.[足の小指の中節骨でも近位の骨端部が欠けている.そのほかにも骨端形成の変異性は以前に考えられたよりも大きいものである(Pfitzner)].母指球の筋肉はこの家族の例では多少とも萎縮し,とくに母指対立筋がそうであった.3節をもつ母指の例を将来しらべるときは,必ず足の母指についても同様の状態があるかどうかしらべるべきであろう.-3節をもつ母指の2例を,さらにH. Salzer(1898)が記載している.2例とも母親からの遺伝である.その解釈にあたってSalzerはPfitznerが述べた次のような説に賛同している.すなわち手と足の母指が2節からなるのも,さらにまた手と足のその他の指が3節からなるのも,それぞれの場合の末節骨がその次の節の骨と融合によって同化したのだというのである.つまり手と足の母指が2節でできているのは,中節骨と末節骨の融合によって,次第に典型的な,しかし大きくなった末節骨が生じたのだというのであって,この考え方に近年のすべての研究者が従っている.また3節の母指は以前考えられていたほど稀なものではない.さらにこの形質は両側性に現われるときには高度の遺伝性をもっている.Stieve(Anat. Anz., 48. Bd.,1915)の報告によれば,両側性に3節の母指をもっている人は今まで合計33人(10家族)にのぼり. そこに遺伝性が存在している.(日本人では横倉誠次郎(海軍医誌12巻1号)に2例の報告があるが,遺伝関係にはふれてない.)

 これと反対に,手の骨格の個体発生をみると,図296を一見してわかるように,母指中手骨はその骨核が指節骨と全く同様の状態を呈している.この事実はまた,母指中節骨を母指基節骨であると考え,従って母指は3節を有し中手骨を欠くとするGalenosの説に新たなそして有力な根拠をあたえるものであった.足の母指においても事情は同じなのであるから(中手骨の場合と同様に,中足骨でも母指のものだけがその骨核を近位端にもつのである.(小川鼎三)),この観点からするならば足の母指も3節からなり,中足骨を欠いているとみなさなければならないであろう.しかしできあがった第1中足骨はその他の中足骨とあまりによく一致しているために,今までだれ1人としてそのような意見を出した人はない.また哺乳動物では第1中手骨と第1中足骨は発生学的にほかの4つと同じ態度をとるということ,さらに人でもこのようなことが時おり見られるということをすでに上述したのである.

第6と第7指放線の痕跡;手根の過剰骨Ossa accessoria carpi

 豆状骨は痕跡的な手根骨で,尺側手根屈筋の腱の付着部をなしている.場合によっては同様の痕跡が手根の橈側にも,さらに中手骨にさえも独立の骨としてみとめられる.足の骨櫓こも同じものが現われる.動物でこれに相当するものがどんな状態であるかを知ることは重要である.Albrechtとv. Bardelebenは上述の骨が前母指Praepollex(足ではPraehallux)と呼ばれた特別の橈側の指放線の痕跡であるとの説を採っている.

 W. Pfitznerの研究は,手根骨でも足根骨でも過剰骨の出現する頻度が,以前に考えられたよりはるかに高いことを示している.

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最終更新日13/02/03

 

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