Band1.248   

 とくに教えるところの多いもう1つの例は踵骨の縦断またはレントゲン像である(図356,366,370).

 踵骨の海綿質は3系の小梁に分けられる.そのうち2系は負荷面から起って2つの場所へ向っている.すなわち1つは踵骨結節が地面につく面へ,もう1つは踵骨の立方骨と結合する遠位面に向っている.立方骨は静力学的には踵骨の地面に向う延長とみられるのである.第3の小梁系は踵骨結節から起り,踵骨の下面にいたり,上に述べたと同じ立方骨との結合面に終っている.この小梁系は踵骨の近位面から遠位面まで分枝することなく直接に続いており,しかも足底面では密集して1枚の緻密な板をなし,また両端部では上方へ扇状に開いている.最初に述べた2系は体重の圧力をうける支梁とみるべきものであり,第3の小梁系は骨の部分が水平方向に押し動かされるのを防ぎ,同時に地面の逆圧をうけるためのカスガイ(Streckband)として働いている.すなわち最初の2系は圧縮力に対抗し,第3系は張力に対抗するのであって,しかもこの3系とも外力へ抵抗するための踵骨内部の圧力線と張力線の方向について図式静力学が教えるところとよく一致している.力学的に意味の少い三角形の空間には小梁は全くないか,繊細なクモの巣のような骨髄の支えをなす糸状のものが存在するだけである.なお踵骨の小梁系はアキレス腱が付着するためにやや複雑になっている.すなわちアキレス腱の張力は,前述の扇状にひろがった後方の小梁系の少くとも中央部の小梁によって直接うけられるが,さらにこれとは別の小さい小梁群が踵骨結節の上部にあって,これはアキレス腱が側方から圧をうけるために生じたものである.

 さて一連の例を説明し終つた今,この注目すべき現象の本質に向って研究を進めることにしよう.この現象は骨にあたえられる体重の負荷によって生じると一応考えられるかも知れない.しかし同じ現象がヒトの上肢や下顎骨のように体重の全くかからない骨にもみられるし,体重を支えるというようなことのない水棲哺乳動物や硬骨魚の全骨格にもみられるのである.

 とすれば或る場合には体重を支えることが,また他の場合には別の要素が,骨のあのような内部構築を生ぜしめるのだと考えてよいのだろうか.ここで直観的に考えられるのは,すべての場合に共通して有力に作用する1つの要素が,内部構築の発生に最も重要な役割を演じるであろうということであって,その要素とは筋肉である.なんとなれば筋肉はその量において骨絡よりもずっと大きく,骨と最も緊密な最も豊富なしかも最も本質的な関係にあり,受動的運動器官である骨にたいして能動的運動器官として働くものだからである.骨は何百もの突起があり,何千もの起始・停止の場所を筋肉に提供し,筋肉はこれらを介して骨に働らき,それによって骨格というテコの全系統が動かされるのである.筋肉の力は軽視することのできないものであって,それどころか筋肉が突然に収縮すると,自身のテコすなわち骨格を折つてしまうことがある程なのである.しかし筋肉が収縮していないときにも,絶えず筋肉から骨に対してかなりの張力や圧力が及んでいるのである.大きな魚の比較的ほつそりとした脊柱を観察し,これに関係する大量の筋肉を見ていただきたい.そしてすでに外から認められるこれらの脊椎の美しい構築をあわせ考えると,筋肉こそが抵抗力をあらわすところの骨小梁の形成に最も深い原因をなすにちがいないという考えに,ただちに到達するであろう.

[図370]海綿質の曲線 ヒトの踵骨(1/2)

[図371]海綿質の曲線 中足骨の前頭断

S.248   

最終更新日13/02/03

 

ページのトップへ戻る