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 われわれの知っているすべての物体は張力と圧力の作用のもとに,分子相互のずれによって一定の変形(ひずみ)Formveränderuugを起す.このとき物体が形の変ることを防こうとして示す抵抗の大きさは,周知のごとく物体によってそれぞれ異なっている.外力の作用が或る範囲内にとどまる場合は,その作用が止んだとき,一般に物体の各点はもとの相互の位置関係をとりもどす.

 張力や圧力の作用によって起る変形を,その力が作用しなくなったとき完全に可逆的にもとにもどす物体の能力を弾性Elastizitätという.またこれが或る限界内で可能であるという,その限界を弾性限界Elastizitätsgrenzeという,弾性限界は物体によって非常にまちまちである.

 ある物体が弾性限界を越えた作用をうけるときには,その作用の程度に応じて異つた反応がみられる.作用が充分に大きいときは物体の破壊が起る.また作用が弾性限界を比較的少しく超過するだけですぐに止むときには,物体はもはや完全なもとの形にもどらないで,余効すなわち残留効果が残るのである.実験をしてみると,完全な弾性状態というべきものは,もちろんごく厳密な意味では,いかなる物体にも存在しない.あらゆる物体において,どんな小さい変形が起つたあとにも,ごくわずかの余効が残るのである.言葉をかえれば,あらゆる変形が一時性すなわち弾性の部分と,持続性すなわち永久性の部分とからなるといえる.しかし(実用上の)弾性限界のうちでは形の変化の永久性部分は弾性の部分にくらべて全く微々たるもので,問題にしないでよいのである.感覚器や神経系のはたらきについて,物理学の諸原理が多くの問題を提供するが,骨格素材についてもまた同じである.ただこの領域では物質代謝がある程度それを調整する力をもっているであろう.

 剛性Festigkeitというのは,ある物体が張力や圧力によって破壊されようとするとき,これに対して示す抵抗のことである.

 単純な張力と圧力に対する弾性および剛性のほかに,物体に及ぶ作用の型によって,なおいくつかの亜型が弾性および剛性に区別されるが,これらもやはり張力と圧力とに帰せられることは同じである.たとえば撓みの弾性および剛性Biegungs-Elastizität und-Festigkeitというのは橈みの力-すなわち1端または両端を支えられた物体の長軸に垂直にはたらく力-に対する抵抗である.また張力および重圧に対する剛性Streb-und Zerkitickangsfestigkeitは柱のように立てられた長い物体が,長軸方向にはたらく負荷に対して示す抵抗のことである.剃りの剛性Abscherungsfestigkeitというのは物体の長軸に垂直に支持台の線に密におしつけながらはたらく「剃りの力」に対して,物体が示す抵抗である.また側方への力が長軸のまわりにはたらいて物体をねじり切ろうとするとき,物体はねじれの剛性Torsionsfestigkeitを示す.

 これらの価を比較するためには,それをいわゆる係数(率)という単一の規準で扱うことが必要である.

 弾性率Elastizitätsmodulは単位横断面積をもつ物体を弾性限界内でその物体の長さだけひき伸ばし(このような変形が可能なものと仮定して),また短縮させるときの重さで表わされる.また剛性率Modul der Festigkeitは単位横断面積の物体を破壊することのできる力である.

 骨を他の建築素材と比較するために,建築方面で最もしばしば用いられるいくつかの材質の弾性率と剛性率を次の頁に示した. 数字は各係数をキログラムで示し,1平方ミリの横断面積に対するものである.

 この表から次のことがわかる.骨質では張力(に対する)剛性率Zugfestigkeitの方が圧力(に対する)剛性率Druckfestigkeitよりも小さい.骨の張力剛性率は最も大きい場合には真鍮や鋳鉄のそれに近く,圧力剛性率は鍛鉄のそれに近い.しかも骨の弾性率は真鍮や青銅の3倍である.また骨の圧力剛性率は石灰石の4~5倍,片麻岩および花崗岩の2~3倍の価でる.

 骨の諸数値をオセインOsseinのそれと比較すると,骨の有能さに対する鉱物性成分の大きい意義が明かになる.

 軟骨の剛性率はオセインのそれよりなお小さい.とくに目だつのはその小さい張力剛性率と,これに比べればかなり著しい圧力剛性率との差である.後者が前者の9倍にもなっている.これによって理解されることは,軟骨は大きい張力に耐える必要のある場所には不向きであり,また長い支柱としても使いものにならならない.しかし軟骨は,短い部分に大きい圧力に耐える力をもつ必要のある場所,たとえば関節軟骨などに全く適している.関節軟骨は適当な緩衝物と柔かい滑動面の2役を演じなければならないのである.(Heidsieck(Anat. Anz., 78. Bd.,1934)は自動車の「布入りタイヤ」の構造を用いて,興味ある軟骨の説明模型を考えた.以前は(Benninghoffによって)模型説明のために鉄筋コンクリートが用いられたのだが.(原著註))

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最終更新日13/02/03

 

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