Band1.267   

 前屈後屈の運動範囲は頚部で最も大きく,腰部では後方へは頚部と同じ程度にまがるが,前方へは頚部の1/3にも達しない.胸部では前屈・後屈が最も小さく,しかも下部胸椎に限られており,ここでは後屈が最も小さく,前屈はそれよりや・大きい.

 屈曲と伸展の回転軸は,髄核の中央を通って左右にのびる水平の線である.しかし頚部ではこの軸がそれそれ下位の椎体の中央を通る.

 側屈は頚部で各側に約30°,胸部で約1000(肋骨を取りさった場合),腰部で約35°である.その回転軸・は髄核の中央をまっすぐ前後の方向に貫く.

 捩転は頚部で各側へ45°,胸部で40°,腰部で5°である.従って全脊柱は各側へ90°ねじれることになる.

 Weberによれば生体では体(脊柱と頭)の回旋は,両足でしっかり立っている場合, 各側へ180°である.そのうち72°は股関節・膝関節・足関節の分であるから,頭と脊柱の回旋としては各側へ約108°という数値が残ることになる.そのうち頭の回旋として各側へ約30. なので,これをさしひくと,脊柱の捩転角として78°が残るのである.

b) 脊柱の太さの増減(図388)

 脊柱は節をもった柱をなすが,この柱はどの場所でも同じ横断面をもつものでないことは,周知の通りである.横断面の形と径はすでに述べたような特有の消長を示す.しかし普遍的な見方をすれば,脊柱の形はこれと同様の負荷と固定の条件下にあって,しかもどの横断面にも均一な抗張力をもっようにでぎた物体の形にほかならないことが容易に認識される.

 このようなわけで,脊柱にはどの横断面にも危険な弱点がないようにできている.かりに脊柱がまっすぐだとしたら,人の脊柱では下部腰椎に弱点が存在することになるだろう.これに対処するために腰椎は横断面が大きいことを特徴としているのである.脊柱の径はそれより下の方では急激に減じてゆく.

c) 脊柱の弯曲(図208210,390,391)

 脊柱は節をもつ柱であり,また均等な抵抗力をもつ物鉢の原理に従ってつくられた柱であるだけでなく,さらに次に述べるような弯曲を示すものである.

α)正中面内の弯曲:前弯Lordoseと後弯Kyphose

 頚部・胸部・腰部の脊柱および仙尾骨には正中面内での弯曲がある.頚部と腰部の弯曲は前方に凸すなわち前弯であるが,胸部と仙骨の弯曲は前方に凹すなわち後弯である.

 これらの弯曲については新しい原理が問題となる.すなわち脊柱は何回か弯曲したバネと,固定されたテコの原理によって,荷重をさsえるのである.図389でhは水平におかれたテコで,a点で固定され,荷重pがかけられている.このテコの腕を,a点における固定はそのままにして,曲げてバネにすることもできる.荷重pが自由端にかけられている点は変りないが,今度はその重力線が他側に,すなわち支点aの後方に落ちる.こうなると弯曲したテコの腕は弾力のある抵抗で荷重を支えるようになる.そして荷重と弾性抵抗が等しいとき,この装置に平衡状聾がおとずれる.

 このことは立っている人の弯曲した脊柱についても認められる.人の脊柱の正中面内での弯曲は図390に示した.まず cpdという部分を見て,前の図のバネfとくらべていただきたい.脊柱のdp部分は仙椎の上半で,仙腸関節によって骨盤に固定されている.その次に来るのが重要な部分pcである.  c点は第9胸椎の椎体に相当する.この点は上肢をつけた体幹全体の重心にあたるので非常に重要な場所である.従って今述べた大ぎな身体部分の重さがこの点に集中すると考えることができる.つまりこの重さは c点においてバネpcに作用するのである.重力線は岬角のはるか後方,固定部の後縁に落ちる.バネpcはこの装置が体重と弾力との平衡状態になるまで,体重によって緊張させられるわけである.そしてその後は不安定でなく安定な平衡状態にはいるのである.一般に各仙椎が骨結合をしていることと,特殊な点としての仙骨の屈曲点d(第3仙椎の中央にあって関節部すなわち固定部の下端に当る)とを説明するヒントがここに見出されるのである.

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最終更新日13/02/03

 

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