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 骨間膜の意義はその線維の走向からおのずと明かである.すなわち骨間膜は橈骨にかかる上向きの張力および圧力を尺骨に伝達するのに役だっている.橈骨と尺骨は上方では橈骨輪状靱帯・斜索・骨間膜の上部によってつなぎとめられているが,同様に下端では関節円板によって横の方向につなぎ合わされているのである.

 肘関節橈尺部と下橈尺関節の力学:両関節は前腕と手の回旋運動すなわち回内Pronationと回外Supinationにあずかっている.(回内とは橈骨による手の運動のうち,外側においた母指側が内側へ回わされるような運動のことであり,回外はその逆の運動である.(原著註))

 この運動では上腕骨が固定されているとき,橈骨の関節環状面の関節部が尺骨の橈骨切痕の中で回転し,同時に橈骨の尺骨切痕が尺骨の関節環状面に接して滑るのである.この運動は橈骨小頭窩の中心と橈骨の尺側切痕の中央とを通る1つの軸のまわりに起る.橈骨の回旋の運動範囲は生体で129~140°に達する(R. Fick).

3. 肘関節Articulus cubiti, Ellenbogengelenk (図416423,425428)

 肘関節は複合関節であって1つの共通の関節包のなかに腕尺部Pars humeroulnaris,腕橈部Pars humeroradialis,橈尺部Pars radioulnarisという3つの関節をもっている.

 この関節をつくっているのは上腕骨橈骨尺骨である.

 関節面は上腕骨では滑車Trobhleaと小頭Capitulum, 尺骨では半月切痕Incisura semilunarisと橈骨切痕Incisura radialis ulnae,橈骨では小頭窩Fovea capituliと関節環状面Circumferentia articularisである.

 上腕骨滑車Trochlea humeriは深い溝のついた滑車で,その形は砂時計に似ているといえる.この砂時計状の滑車は円錐形の部分を2つもっていて,そのうち内側の円錐の方が高さ(14mm)においても周(直径14.1mm)においても大きく,外側の円錐の方が小さい(高さ8mm, 直径11.3 mm).しかし両円錐は同一の,斜めに内側やや下方へ走る軸をもっている.さらに滑車全体が前面では後面より2~4mm狭く,滑車の表面の弯曲も,前面では後面より強い.関節軟骨は前面では内側の方がより上方に達しており,後面ではその逆になっている.滑車の溝のところでは関節軟骨は前後両面とも同じ高さにまで達していて,ここでは関節軟骨が滑車の全周のうち中心角280~320°に相当する部分を包んでいる.溝の走行は正確に円形ではなくて,ラセンの一部をなしている.もっともその「ネジの歩み」は個体によって非常にまちまちである.

 滑車の内側縁も一種のラセンをえがく(Fick).滑車は外側方では,傾斜した縁と個体的に深さの異なる溝とによって小頭とへだてられている.軟骨は1.5mmの厚さである.軟骨は内側縁で最もうすく(1.2mm),外側縁では2mmにも達する.肘頭窩のすぐ下方では最も薄い.滑車の外側縁では軟骨が疎になり,ほぐされたようになり,あるいはところによっては全く欠けている(Fick)-図416を参照せよ.

 上腕骨小頭Capitulum humeriは大体のところ1つの球とみられ,その中心は滑車軸の上にあり,直径は10.5~11mmである.しかし表面の弯曲は方向によって同じでない.軟骨の被いは中央で最も厚く(1~2mm),縁にゆくほど次第にうすくなる.

 尺骨の半月切痕Incisura semilunaris ulnaeはだいたいに上腕骨の滑車と一致しているが,Fickは「肘関節がいかなる位置をとっても,半月切痕の全体が上腕骨の滑車に接触す為ということはない」と記している.半月切痕の弯曲は直径10mmの円孤に相当している.上腕骨滑車の溝に対応して,半月切痕には1本の導稜線Führungsleisteがある.関節軟骨は軟骨で被われない横走する溝によって,2つの部分に分けられている(図417,423,425).両部分のうち後方のものは肘頭に属し,烏口突尊に属する前方の部分とは弯曲の状態を異にしている.軟骨の厚さは導隆線の両端および橈骨切痕との境界では2mmあるいはそれ以上にも達する.軟骨は内外両縁へと次第に薄くなっている.

[図420] 橈骨 VV橈骨の回旋の鉛直軸, a橈骨の尺骨切痕の中央(H. Meyer)

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最終更新日13/02/03

 

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