Band1.298   

 特別な装置としては背側と掌側に補強靱帯があって,背側および掌側手根間靱帯Ligg. intercarpica dorsalia, voiariaとよばれる.掌側の補強靱帯のうち,有頭骨から四周へ放散する線維束をまとめて放線状掌側手根靱帯Lig. carpi volare radiatumという.

 月状骨からは靱帯が1つも起らない(H. Virchow, Fick).掌側靱帯としては,そのほかに舟状骨から大多角骨にいたるものがある.また掌側橈骨手根靱帯の有頭骨に達する線維束も,遠位手関節の補強に役だっている.背側の補強靱帯は尺側より橈側でいっそう強力である.三角骨からは強い線維束が有鈎骨に達するが,舟状骨の背側面からは近位方へも遠位方へも,いうに足るほどの線維束は出ていない.これに対して舟状骨の背面の粗な隆起線から三角骨へと横走する1つの靱帯が張っており,これを背側手根弓状靱帯Lig. arcuatum carpi dorsale, "Bogenband"(Fick)とよぶ.この靱帯は有頭骨と有鈎骨によってつくられる遠位列の関節頭の上を越えて横に伸び,この関節頭をその関節窩の中へ上からおさえつけている.この靱帯から少数の線維束が遠位方へ枝分れして,遠位列のいろいろな骨に至っている.H. Virchowはこれらを手根間靱帯に算入していないが,Fickはそれに属すべきものと考えている.

 この関節の血管および神経は橈骨手根関節の場合と同じである.

[図429] 中指の軸を通る手の断面(1/3) 1. 橈骨,2. 月状骨,3. 有頭骨,4. 第3中手骨,5. 基節骨,6. 中節骨,7. 末節骨.

 手関節の力学:R. Fick(Handbuch, Bd. III,1911)によれば,両手関節においては骨の組合せが,有頭骨の中央を回転中心とする一種の球関節をなすようにできていて,そのため死体ではほとんどすべての方向に動かすことがでぎる.しかし生体で,能動的すなわち意識的に中手を前腕に対して縦軸を中心に回旋(回内および回外)することは不可能である.しかし手じしんは背・掌・橈・尺側いずれのがわへも動かすことができるばかりでなく,任意の斜めの方向にもまげることができる.これらすべての運動にさいして両方の主な関節にずれが起り,またその運動が大きい場合には,両列の各骨のあいだの小さい関節面にもずれが生じる.

 手の側屈運動Randbezvegungすなわちいわゆる橈屈尺屈Radial-und Ulnarabduktionにおける過程は,はなはだ複雑なものである.というのはこの場合,手根骨の両列の回転は1つの垂直軸(掌背方向の軸)を中心とする単純なものではなくて,両列がそれぞれ別の,しかも3つの主方向に対して斜めの軸を中心として回転するのである.すなわちR. Fickが生体においてレソトゲン線によって示したところによると,橈屈においては近位列の手根骨には側方へのずればかりでなく,掌側への屈曲と回内が同時に起るのである.この掌屈と回内運動は,手を橈屈するとき舟状骨が掌側へ,三角骨が背側へ移動し,ために三角骨が手背に凸出することによって,生体でも認めることができる.近位列のこのような運動は,橈屈のさいに大多角骨がそれに付着する筋によってひつばられて,橈骨の遠位端に向ってひきよせられるということを考えに入れると,容易に理解できる.それによって大多角骨は舟状骨(大多角骨は舟状骨の遠位面に背橈側において接している)の橈側部を排除しようとして,これを尺側へ押しやり,さらにこれを近位方および掌側方へ傾ける.こうして舟状骨は側屈と掌屈と回内をつきまぜた1つの回転をすることになり,舟状骨と結合する月状骨と三角骨もこれらの運動をともにせねばならないのである.尺屈のさいは以上と反対の蓮動がおこる.

 手の掌屈と背屈における運動の過程はもっと簡単なもので,この場合には手根骨の両列が,有頭骨の頭を通って横走する1つの軸のまわりを,だいたい同一の向きに回転する(R. Fick).

c)豆状骨関節Articulus ossis pisiformis, Erbsenbeingelenk(図430,432)

 この関節をつくっている骨は三角骨と豆状骨である.

 両骨の関節面はたがいに大きさが一致しており,形はたいてい卵円形で,豆状骨の関節面は軽くくぼんでいるのに対して,三角骨のそれはほとんど弯曲していない.

 関節包はゆるくて薄い.そのため豆状骨は非常に大きい運動性をもっている.関節包は遠位縁を除いて,両関節面の縁のすぐきわに付いている.関節腔は全例の1/3近くまで橈骨手根関節と通じている.

S.298   

最終更新日13/02/03

 

ページのトップへ戻る