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 関節包は厚くて丈夫である.これは寛骨臼の骨縁と,寛骨臼横靱帯から起り,大腿骨の前面では大転子と転子間線につく.後面での付着部は,大腿骨頭の軟骨縁からの距離は前面と変らないのであるが,転子間稜ではなくそれより1.5cmぐらい内側である.表層の線維は縦走しているが,深層のものは斜走,横走および輪走である.関節包のもっとも薄い場所は,すぐあとで述べる各補強靱帯のあいだと,寛骨臼切痕の底のところである.関節腔は前面では大腿骨頚を端から端まですっかり包み,後面では頚の内側2/3を包んでいる.滑膜ヒダは大腿骨頚のところにある.

 特別の装置としては関節包の補強靱帯が4つある.すなわち腸骨大腿靱帯Lig. iliofemorale,恥骨嚢靱帯Lig. pubocapsulare,坐骨包靱帯Lig. ischiocapsulare,輪帯Zona orbicularisである.そのほかになお関節唇Labium articulare,寛骨臼横靱帯Lig. transversum acetabuli,大腿骨頭靱帯Lig. capitis femorisおよび近くに1つの滑液包すなわち腸恥包Bursa iliopectineaがある.腸恥包は関節包の前面にあって,関節腔につながっていることがある.

 腸骨大腿靱帯は人体中最強の靱帯で,腸骨結節から起って扇状にひろがり,大転子と転子間線に付いている.長さ6~8cm,厚さ0.5~l. 4cm,幅2.5~3cmである.この靱帯は両縁がとくに厚く,中央の三角形の部分が最も薄くなっている.それで英仏の学者はこの靱帯をY状靱帯またはV状靱帯と名づけている.恥骨嚢靱帯は恥骨結節から閉鎖稜にかけて起り,扇状に関節包に放散する.その鋭い自由縁は外閉鎖筋の外面をかすめている.坐骨包靱帯は関節包の後面に接しており,坐骨から広く起り,その線維は横走して関節包および輪帯に至る.輪走する線維の束すなわち輪帯は関節包の滑膜層のすぐ上に接してこれをとりまき,上縁および下縁ではその一部が走向を転じて,表層の縦走線維束に移行している.輪帯は大腿骨頚の中央のあたりで最もよく発達している.

 股関節の血管は脛側および腓側大腿回旋動脈と上および下磐動脈から来る.寛骨臼には閉鎖動脈の1枝である寛骨臼枝R. acetabularisが寛骨臼横靱帯の下をくぐつて寛骨臼窩内の組織や大腿骨頭靱帯に来ている.

 股関節の神経は大腿神経・閉鎖神経および仙骨神経叢から来る.またリンパ管は内腸骨リンパ節にいたる.

 股関節の力学:大腿骨頭の表面は半球面をかなり越える広さであるが,けっして正確な球面をなすものではなく,上方が少しおされて平らになっている.関節窩も関節唇の存在によって半球よりも深いくぼみをなしている.かくしてこの関節は杵臼関節Enarthrosis sphaeroidea, Nußgelenkをなしている.

この関節における運動は大腿骨頭の中心点を中心とする球回転運動である.

 関節の横軸は股関節の屈曲軸Flexionsachseをなしている.また矢状軸は外転軸Abduktionsachseである.大腿骨頭の中心から下方へ顆間窩にひいた直線が回旋軸Kreiselungsachseである.また左右の大腿骨頭の中心を結ぶ直線は股関節軸Hüftgelenkatihse od. Hüftdchseとよばれる.

 股関節の使命としては下肢を下肢帯に対して自由に動かし,それによって膝の屈曲軸をいろいろな位置にもってゆくことと,下肢が固定されているときにはその上で胴を動かすことのほかに,なお股関節より上方にある体部の重さを支えるという役目がある.胴の重さは仙腸関節において仙骨から寛骨へ移されるわけであるが,さらに股関節において寛骨から下肢へ荷重が伝達されるのである.この関係をいっそうくわしく吟味してみると次の疑問につきあたる.それは直立位の胴は股関節軸の上にたえず不安定な平衡状態においてバランスをとり,ために筋肉はたえず相当のはたらきを強いられているものなのか,あるいは他の何らかの方法でこの問題が解決されているのか,ということである.

[図443] 骨盤の力学の模型図 上のSは直立姿勢におけるからだの重心, 下のSは重力線,Aは大腿骨頭の中心で,股関節軸の投影点でもある.I--Iは腸骨大腿靱帯とその張力方向を重力線の方へ延長したもの,Dはこの延長線と重力線との交点, P--Pは軸圧の作用する方向,I--Aは腸骨大腿靱帯のテコの腕,S--Aは体重のテコの腕(H. Meyerによる)

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最終更新日13/02/03

 

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