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 理解しやすいために,2, 3, 4および5の層を1つにまとめて見よう,そうすればこれが背方の筋肉(1)に対する腹方の筋肉の全部であることがわかる.そして背方の筋肉が脊髄神経の後校から支配されているのに対して,腹方の筋肉は前枝で支配されている.なお背方の筋肉と腹方の筋肉とを合せて体壁の筋肉parietale Muskulaturという.

 この体壁の筋肉に対して内臓のvisceral筋肉がある.図480のなかではKの符号をもって弓形の内臓骨格を示してある;又これを取り囲む内臓の筋肉には6の番号を付してある.6と4のあいだに体腔があることを忘れてはならない.顎および舌骨の諸筋は内臓の筋肉(6)に属している.

 最後に頚部と頭部では,最も表面に皮筋Hautmuskulaturが加わる.

 四肢Extremitditenについていえば,四肢は体幹の筋肉が貧弱にみえるため, それに較べてはるかに強大な筋肉をそなえているごとく見える.

 腕の筋で背部および胸部にあるものが放射状の走り方をなして,広大な輪郭をもって,肩先きに向って集中している.腕の付け根にあるこの大ぎな円錐状の筋群Muskelkegelによって,上肢は体幹に対してはなはだ動きやすいように付いている.但し胸郭と鎖骨との結合の所はよく動かない.これに相当して下肢の付け根にある円錐状の筋群は,その大きさが上肢のものに較べて,はるかに小さい.

 自由肢は堂々たる筋に被われていて,それらの筋の方向はたがいに平行であるか,あるいは集中,または離開している;一部の人はこれらの筋のなかにはラセン形の走り方をする束もあると考えている.各部が幾層よりなっているかということについては単にそれを数えてみること,あるいはもともと深い関係をもつ部分という見地から個々の筋を分けることの知識が解決をあたえる,しかし後者は,困難な試みであって,目下のところ,体のごく限られた場所に行われ5るのみである.

 四肢とその筋肉とを除いてみると,体幹にははっきりと4つの筋肉の走向が認められる,すなわち腹方の縦走束が1つ,背方の縦走束が1つ,たがいに交叉する2つの斜走束および横走束が1つである(図481).背方の縦走する部分のかなり奥の所にも斜走および横走する束がある.

8.筋の変異と異常Abarten (Varietäten) und Anomalien der Muskeln

 個々の筋は起始,停止,形状および隣接臓器に対する関係について,また神経支配および血管の分布に関して,大多数の筋にはいつも一致して見られる定まった特有な点をもっている.その一致した特徴をまとめることが,正常ということの概念をあたえる.それは生物界では到るところに見られることである.一方,平均からほんのわずかに違っていることはしばしばあることで,これは変異と呼ばれる.より大きな,そしていっそう稀れに見ちれるかたよりは往々異常abnorm(ab否定とnorma正常とからできた語)あるいはanomal(a否定とυόµος規則)といわれる.

 しかしながらこの2つの関係を区別して用いるのはよろしくないであろう,何故ならば一目みて不規則(異常)とおもえる所見も,いっそう軽い程度のかたよりと,結局は同じ規則に従っているからである.純粋な科学においては異常なものは何も存在しない.それゆえ,以下の丈ではAnomalieとAbnormitätの両語は使わないことにする.

 筋の変異(Muskelvarietäten)はしばしば存在する.これは学問的に重要であり,また実地医学にも大切である.一諸例報告の非常にたくさんな文献および若干の総括的な記載(W. Krause, Testut, Le Double, Eisler, Loth)がある,--しかしながらこれらを学問的に利用することは近ごろやっと始まったばかりである.

 筋系統の変異は人にだけ存在するのではなくて,動物でも同様にあるが,しかし下等になるほど変異の範囲が減少している.人種の影響についてはTestutが黒人に関して次のことを認めている.黒人に特有な筋の特殊性はないということ,また黒人にみられる筋の変異は白人におけるよりも多くはないということである.また動物についていえば,猿はその構造が人に最も近いので,目下の題目にとっては特別な意味をもつことは当然といえる.実際,Testutは人にみられる筋の変異のすべてが,猿では平均的な特徴的な(猿の種類を区別する)識別目標として見いだされるという;あるいはもっと一般的にいうならば,人の筋の変異は動物界で普通にみられる型の繰り返しであるというのである.

 しかしながら日本の解剖学者(Koganei, AraiおよびShikinamiならびにAdachi)の統計的な研究は日本人とヨーロッパ人との間に少数の筋の変異の頻度に一定の差異があることを示している.Koganei, Arai und Shikinami, Statistik der Muskelvarietäten, Mitt. med. Ges. Tokio,17;Bd.,1913.

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最終更新日13/02/03

 

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