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 変異

(日本人の僧:帽筋の完全欠如に近い例が報告されている(狩谷慶喜:北越医学会雑誌, 51巻,1139~1142,1936).また鎖骨停止部の変異が胎児および新生児125体のうち5体,8側にみられた(山田迪:解剖学雑誌,7巻, 337~347,1934).)

筋の二分Zweiteilungは,中心腱膜の高さに見られるものが最も多い分岐の型である.筋の左右がわずかに非対称であることは,ほとんど毎常見られることである.筋起始の減少は,男性よりも女性にいっそう多く見られるという.極端に僧帽筋起始が減少している場合にはその上方はわずかにC. IVまで,また下方はTh. VIII, IX, Xまで存在するに過ぎない.鎖骨部を欠如することもある.過剰筋束は,時にこの筋の上部の前縁に見られ,これを鎖骨後頭筋束Fasciculi cleido-occipitalesといい,これが胸鎖乳突筋の鎖骨部に加わることがある.この筋束は,しばしば頭蓋骨に付着しないで上位頚椎の肋横突起に停止し,特に環椎に終ることが最も多く,これを鎖骨環椎筋M. cleido-atlanticusという.また三角筋と結合することもある.

2. 広背筋M. latissimus dorsi. (図482, 483, 500, 501)

 これは比較的薄い筋であって,直角三角形の形をして背の下部を被っている.この筋は,上部では僧帽筋に被われて下部5~7胸椎の棘突起,腰背筋膜,腸骨稜の後部および下部3~4肋骨から起る.筋線維は,横及び外側上方に向い肩甲骨下角を越えて上腕骨に向って走り,扁平な腱となって大円筋を前方に回り小結節稜に付着する.

 上部筋束は横の方向に走るが,それ以下の筋束は下方から起るものほど斜め上方に向い,肋骨から起る外側の筋束は最も強い傾斜をなしている.肩甲骨下端を越えて走る部分は,広背筋膜が棘下筋膜と結合することにより,筋の上縁はわずかにS状の弯曲を示す.肋骨からの起始部は,外腹斜筋下部の鋸状部と噛みあう.

 筋の上部の横走部は,肩甲骨下角を越えて走るが,この部分には肩甲骨に始まる筋束が見られることが非常に多い(これを肩甲骨部Portio scapularisという).

 外腹斜筋後縁, 広背筋前縁および腸骨稜の間にはしばしば筋質を欠く三角形の部分が見られ,内腹斜筋がその底をなしている.この三角形の部分は,腰三角Trigonum lumbaleと呼ばれる(372頁参照).

 神経支配:胸背神経による.脊髄節との関係:C. VI,  VII,  VIII.

 作用:この筋は挙上した腕を下方に,また垂下した腕を背方および内側方に引く,上方の筋線維は肩甲骨を胸郭に圧迫する.肋骨からの起始部は,腕を固定した場合には肋骨挙上の補助筋としてはたらく.

 変異:個々の筋束に分離することがある.棘突起,腸骨稜および肋骨における筋起始の欠如あるいは増加がありうる(肋骨からの起始部についてはFrey, Vierteljahrsschr. naturforsch, Ges. Zürich 1918参照).腰三角の形は,この筋が腸骨稜から起るぐあいによって異る.肩甲骨下角から出る副筋束は,大体いつも見られる.広背筋停止腱は,大円筋の腱と分けられないことが多い.過剰筋束としては,広背筋の外側縁において非常に不定であるが腱性あるいは筋性の索が7~8%(W. Krause,  Le Double)に見られる.これは広背笏の外側縁から分れてでて,腋窩を超えて,多くは大胸筋腱の後面に終るが,また他の場所にも停止することがある.この筋束に対してランゲル腋窩弓“Langer-scher Achselbogen”という名称を用いる.

 他の副筋束としては,長肘筋M. anconaeus longus(Henle),または広背顆筋M. latissimocondyloideus(Bischoff)とよばれるものがある.これは約5%に見られ,広背筋の腱または筋腹に始まり,上腕筋膜,上腕三頭筋,上腕骨に終り,なお遠く前腕の筋膜にも停止することがある.Ruge, G., Morph. Jahrb., 48. Bd.,1914.--Bluntshli,  Morph. Jahrb., 41. Bd.,1910.

3. 大,小菱形筋Mm. rhomboides minor et major, Rautenmuskel. (図483)

 小菱形筋は,僧帽筋におおわれ,短い腱線維をもって第6および第7頚椎の棘突起から起って,斜め外側に走り肩甲棘の底に達する.大菱形筋は,小菱形筋に接し,いくぶん長い腱線維をもって第1ないし第4胸椎の棘突起に始まり棘下窩の高さで肩甲骨椎骨縁に付着する.

 神経支配:肩甲背神経による.脊髄節との関係:C. (IV)V.

 作用:この筋は肩甲骨を内側方および上方に引く.

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最終更新日13/02/03

 

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