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 神経支配:神経は多くは第12胸神経からくるが,腸骨下腹神経,腸骨鼡径神経および陰部大腿神経から枝を受けていることも珍しくない(Eisler).

 脊髄節との関係:Th. XII (L.1, II).

 作用:白線を緊張させ,それによって腹直筋と同じように作用する.

 変異:この筋は16.2%(Le Double),25%(W. Krause)に欠如する. 男では13%,女では10%に欠ける(SchwalbeおよびPfitzner).中国人では(Wagenseil 1927)体側80例の中でわずか1例だけに欠けていた.幅と長さの個体的差異がはなはだ著しい.この筋はまれに重複することがあり,ごくまれには腱画を1個もっている.

β. 腹部の斜走筋
3. 外腹斜筋M. obliquus abdominis externus. (図490, 492, 500)

 この筋は筋肉質に富む8つの尖頭をもって第5~第12肋骨の外面から起る.上部の5つの起始尖頭は外側鋸筋の起始尖頭のあいだにかみ合い,下部の3つの起始尖頭は広背筋の肋骨起始とかみ合っている(図500).背方の線維は垂直に走り腸骨稜の外唇に達する,その前方につつく線維は次第に斜走および横走の径路をとる,腹直筋の外側縁に平行して,且つその近くで筋肉質は腱膜に移行している.

 その腱膜はなおも筋肉質と同じ方向に延びて進み,腹直筋および錐体筋の前で白線に達し,その際また恥骨結合ならびにその近くの恥骨前面にも達する.

 前腸骨棘と恥骨結節とのあいだで腱膜は肥厚して1つの腱条をなしている,これを鼡径靱帯Lig. inguinale, Leistenband(図491, 492)という.

 鼡径靱帯の線維の一部は恥骨結節に達することなく,(直立姿勢では)水平位をとる小さい三角形の腱板となって恥骨櫛の内側端と恥骨筋膜とに付着している,これが裂孔靱帯Lig. lacunareである.その外側の自由縁は鋭くとがり,しかも側方に向って軽く凹んでいる(図491).

 恥骨の前面に付着する腱線維と恥骨結節にいたる腱線維とのあいだに1つの重要な間隙がある.すなわちこれが浅鼡径輪Anulus inguinalis subcutaneus, äußerer Leistenringであるこの輪の内側の境は浅鼡径輪の内側脚Crus mediale,外側の境は外側脚Crus lateraleといわれる.両脚の停止部のあいだにあって背方の境をなしているものが反転鼡径靱帯Lig. inguinale reflexumであって,これは溝状のへこみをもつ線維束である.浅鼡径輪の外側のすみに円みをつけている線維束は脚間線維Fibrae intercruralesという名でよばれている(図491, 492, 493).

 浅鼡径輪から男では精索Funiculus spermaticus, Samenstrangが,女では以前に子宮広靱帯Lig. teres uteriとよばれた子宮鼡径索Chorda uteroinguinalis, rundes Mutterbandが出ている.女では浅鼡径輪の直径は男よりもいっそう小さい.

 神経支配:第5~第12肋間神経,ときとしてさらに第1腰神経もこの筋に分布する.

 脊髄節との関係:Th. V~XII (L.1).

 作用:骨盤を固定しているときに,両側の外腹斜筋が同時にはたらくと,脊柱を前方に曲げ,さらに肋骨を下方に引くことになる.1側の外腹斜筋が作用するときには,それと同時に胸郭が他側へ回転する.胸郭を固定しているときには骨盤が引きあげられることになる.腹圧の項(372頁)をも参照せよ.

 変異:(M. obliquus abdominis externus profundusの1例が報告されている(中山知雄,実田茂=解剖学雑誌,27巻,89~94,1952)完全欠如はまだみられていないが,退化的になっていることはある.筋が重複していることはまれである.起始尖頭の数は7個のことがあり,また9個に達することがある;その最下の起始は腰背筋膜および第1腰椎の肋骨突起から起っている.存在の不定な深部の起始尖頭が上部の弓肋の前端からでている.

 Le Doubleは第6肋骨の続きをなす所で,この筋に1つの腱画をみて記載した.これは腹直筋のもつ,これに相当する腱画と直接の関係をもつものである.

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最終更新日13/02/03

 

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