Band1.375   

腹横筋膜は,下方では腸骨稜,腸骨筋膜ならびに鼡径靱帯と結合している.この膜は半環状線より下方では腹直筋の後面を被い,鼡径靱帯の内側部の下方では外腸骨動静脈および裂孔靱帯に対して重要な関係をもっている.この筋膜から1つの嚢状の突起,すなわち腹横筋膜の鞘状突起Processus vaginalis fasciae transversalisがでて(図498),鼡径管を通って陰嚢のなかに下り,精巣および精索のまわりに1つの完全な被膜,すなわち精巣および精索の鞘膜Tunica vaginalis testis et funiculi spermaticiを成し,その外面は挙睾筋に被われている.この突起の入口は腹膜下鼡径輪Anulus inguinalis praeperitonealis, innerer Leistenring という名で呼ばれている.腹横筋膜より内方には腹膜Peritonaeum, Bauchfellがある.--この重要な筋膜のいろいろな特徴のなかで,次のものはもう少しくわしく述べる必要があろう.

α. 大腿輪中隔Septum anuli femoralis

 鼡径靱帯の内側部から骨盤の方に向って,腹横筋膜は大腿動静脈の結合組織性の鞘の形成にあずかり,下方にふくれ出した薄い膜をなして,そこを通過するリンパ管に貫かれた多数の孔をもち,血管鞘から橋の形をして裂孔靱帯に延びてこの靱帯の内面を被っている.かくして腹横筋膜は大腿輪中隔となって血管鞘と裂孔靱帯とのあいだにある重要なしかし小さい隙間を閉じている.この隙間,すなわち大腿輪Anulus femoralisを通って大腿ヘルニアHerniae femoralesが大腿輪中隔をおし出し,あるいはつき破つて,その普通にみられる通路となっている.

β. 腹膜下鼡径輪Anulus inguinalis praeperitonaealis, innerer Leistenring (図499)

 腹膜下鼡径輪,すなわち鼡径管の内側の口が上に述べた腹横筋膜の門にほかならない,この門とは鼡径靱帯の上方にある腹横筋膜鞘状突起への入口をいうのである.

 この門は卵円形の裂け目であって,上下径の方が長く,内と外の両側縁をもっている.外側縁はあまりはっきりせず,腹横筋膜鞘状突起の前壁に滑らかに移行している.内側縁は多くは半月形あるいは鎌形をしたひだ,すなわち半月ヒダPlica semilunarisとなりはっきりと境されている.半月ヒダには上方に向かった1つの角Hornとほとんど水平に外側に向う角Hornとが区別される.両方の角ははっきりした半月形の切れこみを取り囲んでおり,その切れこみは上外側に向って凹みをなしている.この半月形のひだは腹横筋膜が鞘状突起の中に落ちこむ部分の縁であり,この上に精管が乗つている.

 腹膜下鼡径輪は下腹壁動静脈Vasa epigastrica caudalisに対して重要な位置関係を示している.この動静脈は腹膜下鼡径輪の内側縁で腹横筋膜と腹膜との間を上方に走るのである.つまり腹膜下鼡径輪は下腹壁動静脈のすぐ外側にある.

 さて前腹壁の内面で,半月ヒダPlica semilunarisと腹直筋鞘とのあいだにある腹横筋膜の一部になお注意を向けてみよう.ここでは腹横筋膜に横の方向, もっとも大部分は縦の方向をとっている線維があって,それも強弱の度がいろいろと異なる線維である.これらはあるいは一様な層をなし,あるいは薄い場所がそのあいだにあって2つの束に分けられている.その内側の1束は腹直筋の鞘とその腱とに付着しており,他の外側の1束は腹膜下鼡径輪に直接しているかあるいはその近くにある.これらの腱性の線維がときには筋線維によってかわられている.

 内側の束mediales Bündelはその形によって鼡径鎌Falx inguinalisと呼ばれ,三角形である.これには腹直筋鞘および腹直筋腱に密着している内側縁と鎌の形をした外側縁とがあるが,後者は上の方に向って内腹斜筋と腹横筋の合同した腱のなかに続いていることがまれではない.

S.375   

最終更新日13/02/03

 

ページのトップへ戻る