後天性の鼡径ヘルニアは鼡径管を通って壁側腹膜が外におし出されたときであり,先天性の鼡径ヘルニア(あるいはその素因)は腹膜鞘状突起が開存しているところを腹部の内臓が通って腹腔の外に出るときである.この両方のばあいに下腹壁動静脈はヘルニア嚢Bruchsackの頚の内側にある.しかし内鼠側径ヘルニアHernia inguinalis medialisのときには全く違っている.このときには腹膜下鼡径輪はヘルニアの入口とならずに,鼡径鎌と窩間靱帯とのあいだにある内側鼡径窩の弱い部分が前方にとび出すのである.このヘルニアに浅鼡径輪のところに現われるのであるが,ここでは下腹壁動静脈はその外側にある.それゆえ何かの手術を加える必要があるようなときには,この血管との位置関係が顧慮されなければならない.このヘルニアは一名直接direkt鼡径ヘルニアと呼ばれ,外側鼡径ヘルニアはschräg(間接indirekt)鼡径ヘルニアあるいは鼡径管ヘルニアKanalhernieと呼ばれる.

 腹膜に関しては,ここではごく少し述べるだけにする.すなわち,前腹壁の内面で,腹膜下鼡径輪のところには下腹壁動静脈の外側に1つの小さいくぼみがあり,これが外側鼡径窩Fovea inguinaIis lateralisである.また下腹壁動静脈を被って隆起した1つの低いひだがある,これが腹壁動脈ヒダPlica epigastricaである.両側の下腹壁動静脈のあいだに,小骨盤から臍に向って多少とも太い3条,すなわち正中にある不対の1条と,外側にあって対をなす2条とが走っているが,これらはどれも胎生期には重大な意義をもっていたもので,生後に変形して靱帯となったのである.両側にある条は臍動脈索 Chordae a. umbilicalisであって隣動脈の閉塞したものであり,中央にある条は尿膜管索Chorda urachiであり,これは尿膜の茎の残りものである.さらに腹膜がこれらの上で隆起し,かなり丈けの高い,しばしば著しいひだ,すなわち外側臍ヒダPlicae umbilicales lateraIesと中臍ヒダPlica ulhbilicalis mediaとを成している.これらのひだの間にあるくぼみは臍胱上窩Fovea supravesicalis,内側鼡径窩Fovea inguinalis medialisおよび外側鼡径窩Fovea inguinalis lateralisである.外側鼡径窩は膜腹下鼡径輪に相当しているし,内側鼡径窩は浅鼡径輪と相対している.内側と外側の両鼡径窩のいずれかがヘルニアの脱出点となるのである.しかしきわめてまれに臍胱上窩がヘルニアの脱出点となることがある(図497, 498).

[図499] 前腹壁の下部を内方から解剖したもの 窩間靱帯,腹膜下鼡径輪,大腿輪を示す.

S.378   

最終更新日13/02/03

 

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