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手の掌側における特別な装置besondere Einrichtungen auf der Volarseite der Hand

 橈側と尺側の両手根隆起のあいだには強い横手根靱帯Lig. carpi transversum(図545547)が張っている.これは手根溝を橋渡しして,手根管Canalis carpiを生ぜしめている.この手根管を通り長母指屈筋ならびに浅,深の両指屈筋の腱が正中神経といっしょに通っている.これに対して尺骨神経は尺骨動静脈とともに豆状骨の橈側面で,横手根靱帯の掌側を通るのである,長掌筋の腱は同じく横手根靱帯の掌側を通って手掌に達し,ここで広がって手掌腱膜となっている.

 手掌腱膜Aponeurosis palmaris(図545)は線維性の板であって,これは中央の強い部分と弱い側方の2つの部分とからできている.後者は母指と小指とのもつ短い筋群の上に薄いが丈夫な被いをなしている.中央の強い部分は扇の形をしており,特に手掌の深部の軟部組織を外から加わる圧に対して保護するはたらきをもっている,これは長掌筋の腱の広がりを受ける浅層の縦走線維層と,指のつけねの近くでは縦走束のあいだで外から見えるところの深層の横走線維層とからできている.

 縦走線維の終末束は5つある.第1のものは母指球の筋群の筋膜と皮膚の中に放散して終るが,他の4つは第2~第5中手骨小頭の近辺にまで達して,一部は指の皮膚に放散し,一部はフォーク状に裂けて屈筋の腱をとりまき,中手骨小頭の靱帯装置に固着している.最も遠位にある横走線維束は指のあいだの皮膚のひだ(みずかきSchwimmhaut)の中にとじこめられている.これが皮下横掌靱帯Lig. palmare transversum subcutaneumである(図545).手掌腱膜の掌側面は数多くの線維束を皮下脂肪を貫いて皮膚に送るので,皮膚はこの膜とかたくくっつき,つまんでひだを作ることができない.

 また深層に筋膜葉があって骨間筋の掌側面を被っている.

 指の掌側面では,この筋膜は図545547に画いてあるような線維性の腱鞘fibröse Sehnenscheidenを形成している.

掌側における指の腱の滑液鞘Vaginae synoViales Fingersehnen auf der Volarseite

(日本人の手の腱鞘について横室が詳細に報告している(横室彦四郎:日本医科大学雑誌,4巻,119~184, 339~443, 473~538, 753~810,829~867,1933).)

 指の屈筋の腱が手根管を通過するときに,これらの腱はたがいに分れた2つの滑液包に包まれており,これらの滑液包は横手根靱帯を上方および下方に多少とも越えている(図553).橈側の滑液包である長母指屈筋腱鞘Vagina tendinis m. flexoris pollicis longiは長母指屈筋の腱を包み,しばしば第2および第3指の腱をも包んでいる.また尺側の滑液包である総指屈筋腱鞘Vagina tedinum mm. flexorum digitorum communisはその他の腱を包むのである.ときに第3の滑液包,すなわち中間滑液包intermediäres Sackが存在する.--そのほかの変異も見られる.--

 新生児では手根部の滑液包はすぐあとで述べる指の滑液包とはなお完全に分れている.ところが成人では通常第1指(母指)の滑液包と橈側の手根滑液包との結合が存在する.第5指の滑液包と尺側の手根滑液包とが結合することはいっそうまれである(図553).

 つまり基節骨の底から末節骨の底にいたるまで,5本の指はすべて別々の滑液包besondere Synovialsäckeをもっている.これが[手の]指腱鞘Vaginae tendinum digitorum[manus]である.基節骨および中節骨ではこの腱鞘の骨に向かったがわから1対あるいは2対の幅の狭いひだFalten,すなわち腱ヒモVincula tendinumが出ており,これは腱性の線維束をまじっていることもあるが,特に血管を腱にみちびいている(図550).

 指の滑液鞘は強められる必要があるので,半輪形の腱性の帯である線維性の被層fibröse Aerflagerungenによってその目的を達している.この腱性の帯は指骨の掌側面の側縁と関節包とに固着しているのである.これらの弓状をした靱帯のなかで最も強く且つ最も長いものは基節骨および中節骨の中部にある.

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最終更新日13/02/03

 

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