Band1.466   

S. 466

 大腿の中1/3と下1/3との境に当って,大内転筋の腱には内転筋管裂孔Hiatus canalis adductorii, Ad. duktorenschlitzという1つの裂け目がある(図559, 566).大腿動静脈がこれを通って大腿の後面に達している.この裂孔より上方ではこれらの血管が横走する腱線維により被われていて,この腱線維は長内転筋および大内転筋から血管群の上を越えて内側広筋に張っている.これが広筋内転筋板Lamina vastoadductoriaである.

 かくして作られた管が内転筋管Canalis adductorius, Adduktorenkanalであって,その下方の出口が内転筋管裂孔であり,その上方の入口は特に名づけられていない.上方の入口から大腿動静脈と伏在神経が管の中に入るが,そのとき伏在神経は血管の前方にある.

 この大きな内転筋管裂孔より上方では,大内転筋の腱は2~3個のさらに小さい裂孔をもっていて(図566),これらを貫いて穿通動脈が走っている.

 神経支配:閉鎖神経およびしばしば坐骨神経も来る.

 脊髄節との関係:L. III, IV.

 作用:大腿を内転する.その上部は大腿を曲げるようにはたらき,下部は伸ばすようにはたらく.

 変異(日本人において,小内転筋と大内転筋とが癒着し,両者を区分でき応ものが132体側のうち15体側(11.4%)にあった(松島伯一:実地医家と臨床,4巻,67~69, 751,1927).:まれに半膜様筋と続いている.坐骨結節から起る部分は,この筋の内側部を作って内側顆にまで達するが,これがその他の部分から完全にあるいは部分的に分れていることがある.

γ. 後方の筋群,すなわち屈筋群dorsale oder Flexorengruppe

1. 半腱様筋M. semitendineus. (図556, 558)

 この筋は長く,ほつそりしていて,その中央部に斜め外側上方に走る1つの腱画があって,これにより中断されている.その腱は切り口が円くて,脛骨の上端の内側面に達し,脛骨粗面のかたわらで大腿薄筋の腱より後方かつ下方に停止する.半腱様筋の腱は鵞足の形成にあずかっている.

 縫工筋の腱の粘液嚢である固有縫工筋包Bursa m. sartorii propriaは,すでに述べたように一方では縫工筋の腱と,他方では大腿薄筋および半腱様筋の腱とのあいだにあり,また鵞足包Bursa anserinaは脛骨と最後に述べた2つの筋の腱とのあいだにある.

 神経支配:脛骨神経による.

 脊髄節との関係:LIV, V, S

 作用:この筋は大腿を伸ばし且つ内転し,骨盤を起し,下腿を曲げ且つこれを内方に回す.

 変異:この筋はすでに起始において独立しており,またその腱が大腿二頭筋の腱から完全に分れていることがある.その腱画はすこぶる個体差があり,全部を貫いていないごともあり,また重複していることもある.他の屈筋との結合および尾骨,坐骨,大腿骨稜,仙結節靱帯からの過剰筋束が記載されている.

2. 半膜様筋M. semimembranaceus (図556, 558, 559, 578)

 力づよい筋で,その起始腱は膜様になって下方に続いている.終腱もやはり平たくて膝関節包の高さで中央,内側,外側の3つの索に分れている.中央の索は筋の走向に従って下方に走り,一部は膝窩筋の前で脛骨の内側顆の後面に,一部は膝窩筋のうしろがわで膝窩筋膜に固着している(図578).内側の索は水平方向に曲がって,脛骨の脛側顯で1つの浅い溝の中に固着し,膝関節の内側側副靱帯Lig. collaterale tibialeに被われている(図446).外側の索は斜膝窩靱帯Lig. popliteum obliquumとなって膝関節包の後壁に入り,斜め上外側にすすむのである(図445).

 この腱が3分するすぐまえに,この腱と腓腹筋の脛側頭とのあいだに1つの粘液嚢があり,また内側の索と脛骨の内側顆とのあいだにも1つの粘液嚢がある.

 神経支配:脛骨神経による.

 脊髄節との関係:LIV, V, S.I.

 作用:半腱様筋の場合と同じである,大腿を後方に伸ばしてこれを内転し,また下肢を固定している,ときには骨盤を起し,下腿を曲げ且つこれを内方に回す.

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最終更新日13/02/03

 

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