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III. 脈管系 Systema vasorum , Gefäßsystem(Angiologia)

A. 脈管学総論

I.序言

1. 脈管系の目的

 人間のからだは細胞から細胞へと運ばれていく養分だけで,全身を養っていくことはとうていできない.同様に必要な酸素の流れも,からだ全体を細胞から細胞へと伝えられるのではごく少量しか広がらないであろう.老廃物を運び出すという点でもこの方法ではやはり間に合わない.体のほとんど大部分にはむしろ特別な方法が整えられていてこれらの任務をはたしている.すなわち体の大部分には管からなる一つの全く豊富な系統が通じている.この管は体の結合質に包まれて,これと深い関係をもち,ほとんどすべての器官にその無数の枝と網をめぐらしている.この管は血液あるいはリンパで満されている.

 血液とはこの管の壁でとりかこまれた器官と解釈することができる.これはあり余るほど豊富な養分と酸素を備えているので,他のすべての器官にその富を配分することができる.最初の出発をなしたときを除き,この器官は生体内では絶対に休むことなく,いつも循環運動をおこなっている.それを囲む壁はこの循環運動に一部では消極的にそれを許し,一部では積極的にそれをひき起すようにできている.この循環装置の1個所はこの運動を起し,かつそれを保つ目的のためにきわめて巧妙に作られている.これが心臓である.心臓はいわば生物ポンプというべきものである.循環する血液とその壁には,それにはリンパもいつしよであるが,前にのべたように栄養物および酸素の供給と,代謝産物および炭酸ガスの搬出という仕事を遂行する大きな役割が課せられている.この循環装置の全体の形は一定の法則に従って作られており,またそれが養うべき体の構造,力学の法則および発生の過程などに制約されている.

II. 成人における脈管系の概観(図599, 600)

 心臓は一つの筋性の容器であるが,左右両半の2つの主要部分からできていて,これらを右心および左心と名づける.これはさらに横におかれた,そして穴のあいた隔壁によって2つの部分,すなわち前房または心房,および心室にわかれる.したがって心臓には右心房,右心室,および左心房,左心室があるわけである.左右両半に属するそれぞれの部分はたがいにつながりを持ち,そして血管ともつづいている.また心臓の一半のなかにある空洞は毛細管系の仲介で他半のなかの空洞と結びついている.

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最終更新日13/02/03

 

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