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γ)静脈の変異

 動脈にもしばしば変異があり,また体の1側半にみられる動脈の配置が他の側のものとかなり違っているが,それにしても静脈ではその大いさ,起始,走行の変異はもっともありふれた現象となっている.この現象は静脈が数多くの吻合をもつことと,さらにまた初期循環の形が後に変形してゆくことによっていっそう助長されるのである.

ε)静脈の微細構造

 内膜は扁平で紡維形または多角形をした1層の内皮細胞からできている.中等大の静脈はその外側に核をもった結合組織の層が続き,それに薄い内弾性膜が接している(図606).内弾性膜は小静脈では薄くて均等な性状をもつが,中等大,および大きな静脈では弾性網の形となっている.多くの静脈(腸の静脈,腸骨静脈,大腿静脈,大および小伏在静脈)の内膜には少数の縦走および斜走する平滑筋があり,肺静脈の内膜には輪走する平滑筋が存在する.

 中膜は下肢の静脈(図609)において最もよく発達し,上肢の静脈ではそれより発達が悪く,さらに腹腔の静脈ではいっそう発達が悪い.多数の静脈(上大静脈,毛細管から出てくる静脈の初まり,骨の静脈,脳の柔膜と硬膜の静脈,網膜の静脈)は中膜をまったく欠いているか,または単に斜走あるいは横走する結合組織の束がその代りをしている.これに対して中膜が完全な形をしているときには平滑筋線維の束からできてはいるが,この束は本当に輪走しているのではなくて,斜走およびラセン状の走行をなし,豊富な結合組織によってバラバラに分けられている.動脈の中膜が密集した平滑筋の層からできているのに反して,静脈の中膜は結合組織により多少とも別々に分けへだてられた個々の筋束からできているのである.筋束の表面ならびに筋束を分ける結合組織の中には弾性線維が走っている(図608, 609).

 外膜は多くの場合よく発達し,たがいに交叉する結合組織の束,弾性線維およびはなはだ豊富な縦走の筋束からなっている.動脈の外膜では,この筋束はずっとまれであり,また少量に存在するのみである.門脈の本幹や腎静脈など少数の静脈では外膜の中にまとまって縦走する良く発達した筋層がある.また心房に開口する大きな静脈の外膜には心臓からこれらの静脈に入りこんだ横紋をもつ輪走の筋線維の層がある.この構造によってこれらの静脈の開口部は心臓の収縮期と時を同じくして,これと同調して収縮するのである.

 静脈弁はすでに述べたように内膜のうすいひだである.弾性線維網は特に弁の基部でよく発達している.内膜が平滑筋細胞を有しているところでは平滑筋が弁の構成にあずかっていることもある.

 動脈と同じく静脈壁にも栄養血管,すなわち脈管の血管Vasa vasorumが存在する(図609).

 リンパ管も動脈の項(507頁)で述べたのと同じ関係がある.

 静脈の神経は豊富であって,そのために神経は多くの部分でメスをもって剖出することができる.神経は太い静脈では動脈とよく似た像をしめすが,細い静脈ではたいてい不規則に走っている(Stöhr jr. ).

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最終更新日13/02/03

 

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