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 各帆が緊張したときにはその凸面が心室に向い,凹面が動脈の方に向かっている.腱様の条が弁の自由縁を補強し,この縁の中央部でわずかに厚くなった線維性の部分すなわち半月弁結節Nodulus veli semilunarisと結合している.かなり強い線維性の束が弁の付着縁からこの結節に向かって張っている.しかしこの結節の両側で自由縁に向う小さい半月形の部分すなわち半月弁半月Lunula veli semilunarisは帆の中でも最も薄いところである.そこだけは強い線維性の束がない.また帆の付着部である凸縁のところにはそこを補強する線維の束が通常みられる.

 半月弁の付着部とそのポケット状の部分に一致して大動脈と肺動脈の壁がふくれている.これをsinusといい,その部分の血管は横断面でみると,3つの部分に分れている.その1つ1つがそれぞれに属する帆と共に皿のような形をしている,この血管が3つのふくらみをもっている所は大動脈球Bulbus aortae,肺動脈球Bulbus a. pulmonalisと呼ばれる.

 心室が収縮するさいに弁は動脈壁にくっついて血液を自由に通過させる.しかし心室が弛緩して動脈中の血液が心室壁のゆるみに応じて心室中に逆流しようとするばあい,帆は押し戻されてきた血液によって血管壁からひき離されて,ふくれあがり,たがいに接するように押しつけられ,かくして完全に動脈口が閉ざされる.弁が閉じるばあいにはすべての帆の自由縁,つまり閉鎖縁Schließungsränderと半月がたがいに密接する(図621).そして弁に加えられていた血液の圧力が下るまではこの閉鎖した状態を保っている.その時に心室が新たに収縮して,心室から押し出されてきた血液がうしろ側から帆を別々に離れさせるのである.

 変異:まれではあるが弁の数が減少して,2つになっていたり(大動脈口では約2%[W. Kochによる])4つに増していたりする.極めてまれであるが1つに減っていたり,5つに増している場合もある(Oertel,O., Z. Anat. Entw.,84. Bd.1927参照).

心臓諸部についての各論

血液の流れる方向に従って順次に心臓の各部を観察していこう.

1. 右心房Atrium dextrum, rechter Vorhof (図618623).

 右心房は2つの強大な静脈すなわち上大静脈V. cava cranialisと下大静脈V. cava caudalisを通って流れてくる血液を受けとり,また心臓壁の太い静脈つまり冠状静脈洞によって運ばれてくる比較的少ない血液を受けとる.前部には右心耳Auricula dextra, rechtes Herzohrが曲がってでて,大動脈の前をへて左に向い,肺動脈に到達する(図618, 623).

 右心耳は本来の心房であって,三角形でやや押しつけられた形をしており,縁にわずかなギザギザがある.内面には筋肉の小梁が軽く突出している.これが肉柱Trabeculae carneaeである.本来の心房と大静脈洞Sinus venarum cavarum, Hohlvenensackとの境は斜走する筋の高まり,すなわち分界稜Crista terminalisによって明かであり,それに相当して外表面には浅い右心房分界溝Sulcus terminalis atrii dextriiという溝がある(図619).

 大静脈洞はもともと独立した空所で,心臓に流れこむ血液をうけ入れるところであった.後になって本来の心房といっしょに1つの空所をつくり,分界稜と分界溝がその境界を示すのである.

 上大静脈は2cmの広さの口をもって心房中隔の前部に密接して心房の上壁を貫いている.それゆえ下前方に向うわけで,下大静脈の方は上内側に向う道をとり,3~3.5 cmの広さの口をもって心房の後下部に入る.この2つの大静脈の開口部のあいだで心房壁が小しくへこんでいる.内面ではその部分が軽い隆起部つまり静脈間隆起Torus intervenosusとなっている.

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最終更新日13/02/03

 

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