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 心房の底部で,下大静脈の前方には(右)房室口Ostium venosum(dextrum)があり右心室に通ずる(図621).房室口の形はやや長めの円形で,直径約4cmである.そのほかにもまだいくつかの口が右心房にある.冠状静脈洞の開口は円形をなし,ここに半月形の冠状静脈洞弁Valvula sinus coronarii(図623)がみられ,心臓の後壁で下大静脈の開口と房室口の中間に位置をしめている.なおいくつかの小さい口があり細小静脈孔Foramina venarum minimarumというが,そのあるものは袋のようなへこみで盲状に終り,あるものは心臓壁の小静脈の開口部となっている.

 左方で上方には心房中隔がある.この中隔の下部で下大静脈の開口部の近くにやや長めの円形のくぼみ,卵円窩Fossa ovalisがあり,ここでは中隔が薄くて半透明になっている.卵円窩は胎生時に心臓の中隔にあった開口部の名残りである(図619).卵円窩を取りまいている厚い高まりは筋肉でうらづけされており,卵円窩縁Limbus fossae ovalisという(図623).成人でここに左前上方に向う裂けたような形の小さい通路が左心房に達していることが珍しくない.

 卵円窩の前下端と連なって左右の方向にのびた半月状の下大静脈弁Valvula venae cavae caudalis(図623)というひだが突出している.このひだは右下方に向かって下大静脈の開口の前縁に達している.

 このひだは胎児では某だ大きくて,下大静脈の血液を卵円孔Foramen ovaleに導く役目をするのである.成人では非常に小さかったり,あるいははなはだ大きくてふるいのように穴のあいていることもあり,また全然なくなっていることもある.

2. 右心室Ventriculus dexter, rechte Kammer (図618623, 625, 626)

 壁の外面は軽い凸をなし,左上方に伸びて円錐状となり,天動脈の上を越えて突出している.この部分を動脈円錐Conus arteriosusという.動脈円錐は比較的つよい筋の高まり,室上稜Crista supraventricularis(図625)によって房室口から境される.内側の壁は心室中隔からできているが,この中隔は右心室内に向かってふくれ出しているため右心室内は比較的狭くなり,その横断面は半月形で,左方に向かってくぼみ右前方に向かってふくれた形である.壁の内面は内側(中隔のおもて)にも外側にもたくさんの肉柱をもっている,これは動脈円錐に向うにつれて次第に弱くなり遂にはなくなる.

 乳頭筋Musculi papillaresには前方にある1つの強い前乳頭筋M. papiilaris ventralisと,数はそれより多いが形はいっそう小さい小乳頭筋Mm. papillaresparviとがある.前乳頭筋の基部には中隔から中隔縁柱Trabecula septomarginalisが来ている.房室弁(図621, 625)には3枚の主尖があり,なお2枚の補助尖が加わっていることが多い.主尖の数からこの弁を三尖弁Valvula tricuspidalisという.主尖は位置によって前尖Cuspis ventralis,後尖Cuspis dorsalis,中隔尖Cuspis septalisとよばれるが,このうち前尖が最も大で中隔尖がいちばん小さい.

 後尖と中隔尖は融合して1枚になっていることが珍しくない.また尖の数がもっと多くなっていることもある,腱索Chordae tendineaeは主として乳頭筋から出るが,心室壁なかんつく中隔から出るものも多少ある.1つの乳頭筋からか,あるいはかなり大きな1つの乳頭筋がいくつかに分れているときにはその枝分れした1組のものから出る腱索は尖と尖のあいだのところに向かってすすみ,それから別々に分れて2枚の尖に付着している.

 動脈円錐から肺動脈に移行するところに肺動脈弁Valvula a. pulmonalisがあり,これは右半月弁,左半月弁,後半月弁Velum semilunare dextrum, sinistrum, dorsaleという3枚の帆からなる(図621).

3. 左心房Atrium sinistrum, linker Horhof (図618622, 625, 627)

 左心房は心臓のすべての部分のうちで最も後方にあり,両側の肺根のあいだにはさまれている.

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最終更新日13/02/03

 

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