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 より深いところにあって,左右の心房にそれぞれ固有となっている層は,係蹄を作って走る線維束と,輪走する線維束とからなっている.係蹄を作る束は縦の方向に心房を越えて走り,その両端がそれぞれの側の線維輪に付着して終る.輪状に走る束は心耳をとりまき,また心房セこはいる上下の大静脈や肺静脈および冠状静脈洞の開口部をとりまいている.冠状静脈洞は左心房から線維をうけている.諸静脈の開口のところでは心房の筋線維はある距離だけ静脈じしんの上にまで広がっている.心臓中隔では卵円窩が特別の線維で境されているために,線維束の走行が変化をうけている.卵円窩をかこむ線維は弓形および係蹄の形を作って走り,その一部が交叉していくことは中隔の発生学によって説明される.

β)心室の筋肉

 表面にある層は線維輪と大きな血管の根もとから斜めに向かって右上方から左下方に走り,左右の心室を越えてゆく.心尖では線維束がラセン状をなして集まり,こで心渦Vortex cordisという非常にはっきりした渦巻を作り,さらに内部にまがって上にあがり,内側の壁を作る.この内壁には肉柱や乳頭筋がある.2つの縦走する層のあいだによく発達した板状の輪走筋層がある.これは左右の心室にそれぞれ固有のものであるが,内外両面の縦走する層とつながりをもっている.そこでCruveilhierが述べたように心室の筋肉の関係を次のように云いあらわすことができる.すなわち心臓の筋肉は2つの袋からなり,それが第3の袋の中にいっしょに突きささつているようなものである.

 心室中隔もまた3層の線維束からなり,1層は右心室に,1層は左心室に属し,中央部の1層は左右の心室に共通のものである.

 心筋線維の走行に関する比較解剖学的研究はBenninghoffが行つている(Morph. Jhrb., 67. Bd,1931).

[図630] ヒトの心臓を煮たもの 前下方から見たところ,筋肉の各層を剖出してある.(3/4)

 A 右心室;B 左心室;C 右心耳;D左心耳.1 斜走する表面の線維,前室間溝を越える;2 右心室の少し深い層,これよりさらに深い層3と同じく室間溝の中で内側にまがる;4 右心室のいっそう深い線維,急角度で上にのぼり一部は乳頭筋にいたる;5 左心室の外側の層の断面;6 中隔の線維,7 左心室の内側にある急角度で上方に向う線維.

γ)心臓の刺激伝導系Reizleitungssystem des Herzens(図626, 627)

 心臓の刺激伝導系は洞房結節,田原結節およびヒス束からなる.

 房室束(ヒス束)Fasciculus atrioventricularis(Hissches Bündel)は幅の狭い筋肉の条で(Hollによると)冠状静脈洞を囲む壁と,恐らくは右心房(および左心房も?)の壁の冠状静脈洞に近い部分から非常に細い線維束をもっておこる.これらの線維群が網を作る(田原結節).この結節Nodusからヒス束のTruncusが心室中隔の筋性部の上縁の右側を前方に向かってすすみ,心室中隔の膜性部の下縁に沿って走り,膜性部の前縁のところで右脚Crus dextrmと左脚Crus sinistrumとに分れる.左右の脚は心室中隔の左右の表面を内膜の下に密接して走り,左右の心室の乳頭筋にいたり,そこで内膜下に網を作る.

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最終更新日13/02/03

 

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