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 ヒス束の筋線維に伴って神経線維や神経細胞がある.

 田原結節と同じような構輩をもつ5mmの長さの結節が右心房の壁にある.しかもちょうど分界溝,すなわち右心耳と大静脈洞の境のところに当たっている.これを洞房結節Nodus sinuatrialis, Sinusknotenあるいはキース・フラック結節Keith-Flackscher Knoteh といい,この結節と田原の結節とのつながりは今のところはっきりわかっていない.

 ヒス束は心房と心室の筋肉を直接つなぐ唯一のものである.

 ヒス束の右脚は円に近い横断面を示し,まず右側の中隔壁を走り(Holl).ついで中隔縁柱のところでかなり前方に凸の弧を画きつつ,内膜下を深浅いろいろに通って前乳頭筋の底にいたる.1つの小さな枝が内側に向かって分れて小乳頭筋にいたる.

 左脚は帯状であって,細い線維に分れてみえる.左側の中隔壁を心尖の方向に向かって走り,次第に幅が広くなる.中隔の半分の高さに達するまでに前,中,後の3枝に分れる.中枝は心尖に向い,前枝は左乳頭筋の底に,後枝は右乳頭筋の底にいたる.

 Tawara. S., Das Reizleitungssystem des Säugetierherzens. Jena 1906--Keith und Flack, Journ. anat. physiol., 41. Bd.,1907--Holl, M., Denkschriften der Akad. Wiss. Wien,87. Bd.,1911.

δ)心筋の微細構造

 心臓の筋肉は心筋細胞からなる.心筋細胞は多数の枝を出し,接合質(図116,117)という特別の物質を介して隣りの筋細胞と前後にも横にもつながっている.したがって心臓の筋塊は全体として大きな格子を作っているわけで,その格子のすきまは結合組織で充たされている.結合組織の中には多数の毛細血管(図116,117)や神経がある.

 心筋の腱は膠原線維あるいは弾性線維,あるいはその両者からできているが,その腱がわずかしかなく,しかも心臓の筋肉が線維輪につながるところと腱索の起始,および左右の心房の内膜のなかにしかない(Becher 1934).

 肉柱と乳頭筋の存在により心臓壁の内面はところどころに割れ目を作っているが,これは発生の過程から容易に説明できる.発生の初期には心臓壁が割れて筋性の小梁や板になっていることが非常に著明に見られるのである.完成された形ではこの初期の状態がわずかに残っているだけとなる.下等な脊椎動物では心臓がいつまでもこのような海綿状の割れ目をもつ筋肉からできている.

 刺激伝導系の微細構造は多くの点でまだ充分に探究されていない.洞房結節には非常に細くて,筋形質に富み,かつあらゆる方向に枝分れする筋線維があり,この筋線維はたがいにつながり,多量の結合組織によってまとめられている.筋線維とともに神経線維も存在する.田原結節の筋線維はそれより太くて,やはり筋形質に富み,多数の核を有している.その枝は比較的大きい角度を作って分れる.この枝が作る網材は不規則な配置を示している.結合組織が豊富に含まれるが,洞房結節に比べると少ない.ヒス束およびその分枝では筋線維ヵ凍の走る方向に配列されている.ヒス束の幹の筋線維は普通の心筋線維より細く,脚とそれが広がって行く先の筋線維は普通のものより太い.ヒス束の筋線維は筋形質に富んでいる(Bulian, F., Anat. Anz., 56. Bd., およびLotos Prag. 72,1924参照).肉柱において心内膜のすぐ下に存在する線維は,ずっと古くからプルキンエ線維Purkinjesche Fädenとして知られている. Vitaliの手の心臓における研究(Anat. Anz.,84. Bd.,1937)によると,この線維は無髄神経線維の密な網で包まれ,この神経線維はまた筋形質にもはいっていってそこに終わっているという.

 房室束とその分枝は比較的密な結合組織の鞘で包まれており,この鞘に色素を注入すると房室束の走行についてはっきりした像が現わされる(Aagaard U. Hall).

 Aschoff, D. med. Wochenschr,1910, S.104.--Aagaard U. Hall, Anat. Hefte, 51. Bd.,1914.--刺激伝導系の系統発生についてはA. Benninghoff, Sitzber. Ges. z. Beförd. d. ges. Naturw. zu Marburg,1920参照.

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最終更新日13/02/03

 

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