Band1.540   

III.体循環の血管

A. 大循環の動脈

 大循環のすべての動脈は大動脈Aorta(Arteria aorta)というただ1本の幹から出ている.大動脈は左心室から出て(図618, 633).胸腔を右前上方に向かって上り,心膜を出て,左後方にまがって左気管支の上を越え,脊柱の左側に達し,脊柱の前方を下方にすすみ,横隔膜の大動脈裂孔を通って腹腔に木り,第4腰椎の高さで右と左の総腸骨動脈を送るが,本幹のつづきは細くて尾動脈Aorta caudalisとよばれ,仙骨と尾骨の前面を下方に走って終る(図600, 636).

 大動脈の個々の部分にはその方向と位置とによっていろいろな名前がつけられている.大動脈の初部を上行大動脈Aorta ascendens,左の肺根を越えて曲がっている部分を大動脈弓Arcus aortae,脊柱のそばを走る部分を下行大動脈Aorta descendensと名づける.大動脈弓の終りの部分は狭くなっていて大動脈峡Isthmus aortaeとよばれる.下行大動脈をさらに胸大動脈Aorta thoracica,腹大動脈Aorta abdominalisに分ける.なお尾動脈Aorta caudalisは骨盤の大動脈Beckenaortaである(図600, 636).

a)上行大動脈Aorta ascendens

 上行大動脈は左動脈口から心膜を出るところまでの範囲である.

 大動脈は左心室の前上端において胸骨の後で第3肋間隙の高さではじまり,胸骨に向かって右前上方にすすみ,右の第2胸肋関節の高さでSinus maximus(最大洞の意)をもって終る.そこは動脈壁が右に向かって胸骨縁をこえて側方にはり出し卵形をして膨れている部分であって,ここが同時に大動脈弓への移行部となっている.3つの大動脈洞によって作られている膨れた部分は大動脈球Bulbus aortaeとよばれ,肺動脈の後にある(図633).

 局所解剖:上行大動脈は5~6cmの長さがあり,完全に心膜嚢のなかにある.肺動脈とともに心膜で包まれている(図600).その初まりの部分は前方から肺動脈,横から右心耳,後から肺動脈の右枝にとりまかれている.さらに上方では左側に肺動脈,右側に上大静脈がある.

 前と左の大動脈洞に当るところから冠状動脈Kranzarterienが出ている.この動脈は心臓壁に血液を供給し,その栄養動脈としての役目をなしている.それゆえすべての器官のうちで心臓がまず最初に血液の供給を受ける.

右冠状動脈Arteria coronaria(cordis) dextra(図633, 635)

 右冠状動脈は前大動脈洞から出て右心耳と肺動脈の間を通り,冠状溝のなかを心臓の右縁にいたりそこから後面にすすんで後室間溝に達し,室間枝Ramus interventricularisとしてこの溝のなかを走る.

 その途中で右冠状動脈は1本の枝を動脈円錐に送り,また多数の枝を右心耳と右心室にあたえ,さらに数本の枝を血管のまわりの脂肪組織に送っている.

 一本の小枝はさらに冠状溝を走って,心臓の左半の一部をも養っている.室間枝Ramus interventricularisは比較的太くて,後室間溝のなかを心尖にまで達し,左右の心室に枝をあたえている.

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最終更新日13/02/03

 

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