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左冠状動脈Arteria coronaria(cordis) sinistra(図633, 635)

 左冠状動脈はたいてい右のよりやや太くて,左大動脈洞から出て,ついで肺動脈の左後方を前方にすすみ,肺動脈と左心耳のあいだに現われる.ついで心臓の前室間溝にいたり,そこで回旋枝Ramus circumflexusと室間枝Ramus interventricularisとに分れる.

 回旋枝は2枝のうちで比較的弱く冠状溝の中を横走して外側に向い,後面にいたり右冠状動脈の終枝の近くに達する.室間枝はそれより太いもので,前室間溝の中を心尖にまで達し,両側に枝を出してこれらは左右の心室と心室中隔にいたる.また左冠状動脈から小枝が心房,大動脈,肺動脈などに送られる.

 心臓壁の動脈の走行はうねっている.これは心臓が弛緩(Diastole)したり収縮(Systole)したりするさいに引き伸ばされたり圧迫を受けたりすることを防ぐのである.左冠状動脈は左心室の前壁,右心室の少なからぬ部分,心室中隔の一部を養い,右の冠状動脈は心室中隔の大部分,右心室,および刺激伝導系を養うのである(Domarus, S.174 Anm. より).

 臨床的に重要な1つの問題は,左右の冠状動脈がたがいに連絡しているのかどうかということである.わりあい太い吻合が表面,特に右心室と心尖の前面および中隔のなかにみられる.最も重要な吻合が左冠状動脈の回旋枝と右冠状動脈との間にあるが,その太さは個体的に大いに相違する.

 変異:時どきただ1本の本幹があって,それから左右の冠状動脈が出ている.また冠状動脈が3本あることもあり,その場合に第3のものはたいてい他の1本のすぐそばから出ている.

 Meckelは冠状動脈が4本あるものを見ている.しばしば2本の冠状動脈のうちの1本が優勢で,正常では他の1本が分布している区域の一部をこのものが養っている.右冠状動脈の起始は右と左の半月弁が会合している位置よりも1.5cm上方にある(Adachi).

b)大動脈弓Arcus aortae

 大動脈弓は右の第2胸肋関節の高さで上行大動脈につづいて始まり;上方に向かって突出する軽い弧を画いて左後方に曲り,第4胸椎の高さで脊柱に達する.

 局所解剖:大動脈弓の頂点の高さはだいたい第1肋骨の胸骨付着部の上縁に相当している.大動脈弓は胸膜の縦隔部と肺臓によって被われ,気管分岐部のところを越えてゆく.後方ではその右側に食道がある.弓の上縁に左腕頭静脈が接し,弓の下には肺動脈の右枝が左から右に走り,また反回神経が前から後に走る.大動脈弓の長さは5~6cmで,その直径は初まりの所で2.5~3cm,終りの所で2~2.5 cmである.

 大動脈弓の凸縁から頭部と上肢に向う大きな血管の幹が出る.すなわち腕頭動脈,左総頚動脈,左鎖骨下動脈である.凹縁は同時に肺動脈の分岐部の上を越えて曲り,その終りの部分で肺動脈の左枝と動脈管索をもってつながっている.また上気管支動脈が凹縁からでるが,これは変化に富んでいる.

Paraganglion aorticum supracardiale

 大動脈弓と肺動脈の右枝の間にはPenitschka(Z. mikr. anat. Forsch., 24. Bd.,1931)によれば人および哺乳類ではParaganglion aorticum supracardiale(心臓上大動脈パラガングリオン)が存在するという.これはそのすべての性質が頚動脈糸球(頚動脈間パラガングリオン),すなわちいわゆる頚動脈腺Carotisdrüse と一致しているという.

腕頭動脈Truncus brachiocephalicus (図636)

 腕頭動脈は4~5cmの長さであり,大動脈弓から出る血管のうちでいちばん太い.

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最終更新日13/02/03

 

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