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 気管の右半分の前を斜めに右上方にすすみ,右の胸鎖関節の近くで右総頚動脈と右鎖骨下動脈とに分れる.

 局所解剖:この血管は多くの場合,全く胸腔の内部にあり,前方は胸骨柄によって被われるが,上部では胸骨舌骨筋と胸骨甲状筋の起始部により,下部では左腕頭静脈によって胸骨柄からへだてられている.右には右腕頭静脈があり,左には左頚動脈がある.胸鎖乳突筋の両頭の間で鎖骨上縁からはいると腕頭動脈にたやすく到達できる.

 変異:最下甲状腺動脈Arteria thyreoidea imaはGruberとNuhnによると10%において見られ,これは腕頭動脈(6.2%)大動脈弓(0.5%),頚動脈,鎖骨下動脈,甲状頚動脈,あるいはその他の下頚部にある動脈から出ている.この動脈は最下甲状腺静脈(これは常に存在する)とともに気管の前を上方に向い,小挾を気管と胸腺にあたえ,甲状腺の峡および1側葉あるいは両側葉の下部に分布する.このような場合には下甲状腺動脈が全く,またはその一部が欠けていることがある.

左総頚動脈Arteria carotis communis sinistra(図636)

 左総頚動脈は大動脈弓の中央で多くは左鎖骨下動脈よりも腕頭動脈に近いところから出て気管の左縁の前をほとんど直線的に上方にすすむ(図639, 640).

左鎖骨下動脈Arteria subclavia sinistra (図636, 639, 640)

 左鎖骨下動脈はかなり左後方によつたところで大動脈弓から出て,上方に鋭い弓状の弧を画いて第1肋骨の上面を越え上肢にいたる.

 非常に細い2~3本の気管支動脈が大動脈弓のへこんだ下面から出て気管の分岐部にいたり,またそこにある気管気管支リンパ節に達する.

大動脈弓の変異

 大動弓には興味のある数多くの変異がある.その一部は大動脈弓それ自体が変化しているものであり,一部はその主枝が変化しているもの,また一部はこの主枝から分れる枝が変化しているものである.

1)大動脈弓の変化

 大動脈弓の高さが普通より高いことと低いこととある.非常に高いときには胸骨柄の上縁に達しており,はなはだ低いときには胸骨柄の上縁から6~7cmも隔たっていることがある.

 大動脈弓が重複していることは人間では趣めてまれにみられるにすぎないが,この異常には2つのちがった型がある.

[図636] 自然の位置にある胸大動脈と腹大動脈およびそれらの枝(Quainによる) 第1肋骨は斜角筋の停止するところで分離し,やや外方に引いてある.その他の肋骨はだいたいに最も外側に突出したところで切断し,左側では内肋間筋を除去してある. 横隔膜はその脚の近くで切断, 胸部と腹部の内臓は大部分とり出してある.1上行大動脈;2大動脈弓;3, 3 胸大動脈;4腹大動脈;5, 5 総腸骨動脈;6尾動脈;7腕頭動脈;8総頚動脈;9鎖骨下動脈;10気管支動脈;11,11食道動脈;12,13肋間動脈;14肋骨上枝;15腹腔動脈と下横隔動脈;16上腸間膜動脈;17,17腎動脈;18下腸間膜動脈;19胸管;20右縦胸静脈.

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最終更新日13/02/03

 

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