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 総頚動脈は枝を出すことなく気管と喉頭のそばをほとんどまっすぐ上方にすすみ,甲状軟骨の上縁の高さで(頚の短い人ではもう少し上方で)鋭角をなし,あるいは音叉のような形をして,ほとんど同じ太さの2本の主枝,すなわち外頚動脈と内頚動脈とに分れる.

 総頚動脈は2分する前には1本も枝を出さないか,あるいは出してもそれは非常に目だたない程度の枝であるから,全長にわたって太さが変らない.しかし分枝部に接してたいてい内頚動脈にまで及ぶやや広くなった所があって,これを内頚動脈洞Sinus a. carotidis internaeという.この内頚動脈洞の壁は中膜のすべての成分が全般的に減少しているので附近の部分より薄くなっている(Sunder-Plassmann, Z. Anat. Entw.,93. Bd.,1930).それに反して外弾性板は幅が広くなっており外膜が非常に強くなっている.そこにははなはだ豊窟な神経終末装置がある.これと同じような構造はその他では大動脈弓に減圧神経が侵入するところに見られるのみである.

 局所解剖:頚の下部では左右の総頚動脈はただ気管の幅だけの小さい間隔だけたがいにへだたっているが,もっと上方では喉頭と咽頭がその間にはいるので隔たりが大きくなる.つまりこの動脈は上にゆくにつれてたがいに離れるのである.また後方は椎前筋膜に接し,前方ではその外側にある内頚静脈と共に中頚筋膜によって被われる.内側は縦中隔Septum longitudinale(図512)によって頚部内臓と境される.迷走神経は総頚動脈と内頚静脈のあいだの後方にあり,それよりやや内側で後方に交感神経幹がある.非常にまれに迷走神経が総頚動脈と内頚静脈の前にあるが,日本人ではAdachiによるとややその頻度が高いという.--総頚動脈の下部の前方には鎖骨の胸骨縁(右では胸骨柄の上部もある).胸鎖乳突筋,胸骨舌骨筋,胸骨甲状筋がある.頚動脈の上部は胸鎖乳突筋の内側でこの筋の前縁と肩甲舌骨筋の上腹,および顎二腹筋の後腹でかこまれた頚動脈三角Trigonum caroticumの中にある.この三角形の下角にあたるくぼみにおいて頚動脈の搏動を容易に見ることができるし,また触れることもできる.第6頚椎の肋横突起が突きでていて(頚動脈結節)そこに頚動脈を押しつけることができる(図510).舌下神経の下行枝は」血管鞘の前面を下方にすすみ,頚神経叢の若千の枝とともに頚動脈の外側で係蹄を作る.これを舌下神経係蹄Ansa hypoglossiという.

 神経:交感神経,舌咽神経,迷走神経,舌下神経の下行枝による.外膜の中に多数の小さい神経節がある.

 変異:右総頚動脈がときどき直接に大動脈弓から出たり,左の頚動脈と共通の幹をなして出たりする.鎖骨下動脈が大動脈弓から直接に出て,しかもその位置が変わっているときには,右総頚動脈が大動脈弓からの最初の枝をなすことがある.腕頭動脈が長かったり短かったりすることもあり,100例中12例でその分岐点が鎖骨の上または下である.左総頚動脈はその起始が右にくらべて変化していることが多く,その場合はたいてい腕頭動脈から出る.右鎖骨下動脈の起始が別になっているさいは左総頚動脈が右総頚動脈と共通の幹から出ることがある.内臓逆位あるいは右曲りの大動脈弓の例でときどき左総頚動脈が左鎖骨下動脈とともに左腕頭動脈から出る.総頚動脈の分岐点は頚の短い人では普通より上方にあることがある.しばしば舌骨の高さにあったり,時にはもっと上にあることもある.少数の例で分岐点が甲状軟骨の中央,またはその下縁にずれていたり,それどころか輪状軟骨の下縁まで,あるいはさらにもっとひどくずれていることがある.--まれに内頚動脈と外頚動脈が大動脈弓から直接に出る.--まれに総頚動脈が分岐しないで頭部に達し外頚動脈の枝を自ら出している.また内頚動脈の欠けている場合もある.一総頚動脈が枝を出すことはまれであるが,その枝としていちばん多いのは上甲状腺動脈であり,また喉頭動脈や下甲状腺動脈,さらにはまた椎骨動脈が総頚動脈から出ていた例も知られている.

頚動脈糸球Glomus caroticum, Carotisdrüse(図634, 637)

頚動脈糸球あるいは頚動脈間パラガングリオンParaganglion caroticumというのは総頚動脈の分岐点にある小さな結節状のものである.

 頚動脈糸球は総頚動脈と外頚動脈から出る小さい動脈枝からなり,この小枝は数ヵ所でフラスコ様の広がりを示し,そこから出る毛細管と糸だまのようにからみついている.

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最終更新日13/02/03

 

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