歴史的な偉大な解剖学書
2. 舌動脈Arteria Iingualis (図639, 640, 641)
舌動脈はその起始から上内側に曲り,舌骨の上方にいたり,大角の先端の後方で舌骨舌筋に被われて舌にはいる.強い迂曲をなしつつオトガイ舌骨筋と舌骨舌筋のあいだを通って舌尖に向う.その枝を次にあげる.
a)舌骨枝Rhyoideus.舌骨の上縁にそって走り付近の軟部を養い反対側の枝と吻合する.
b)舌下動脈A. sublingualis.舌骨舌筋の前縁において起り,顎舌骨筋と舌下腺のあいだを前方にすすむ.この動脈は舌下腺と付近の筋ならびに口腔の粘膜と歯肉を養う.
c)舌背枝Rr. dorsales linguae.急な角度で上つて,舌背の後部にいたり,そこで枝分れして喉頭蓋にまで達する.両側の舌背枝はしばしばたがいに合して舌盲孔に向かって走る小幹をなしている.
d)舌深動脈A. profunda linguae.大きさおよびその走向からして舌動脈の幹のつずきである,舌の下面の近くでオトガイ舌骨筋の外側に接してうねりながら前方にすすみ,そのさい多くの側枝を出し,ついで舌小帯に密接する.左と右の舌深動脈の枝は吻合しない.
変異:舌動脈の起始部がしばしば顔面動脈または上甲状腺動脈とともに1本の共同の幹をなしている.いっそうまれにはこの3本の動脈がみなで1本の幹をもっていることがある.舌下動脈の太さは非常にまちまちである.ときとして顔面動脈から出て顎舌骨筋を貫いている.他の動脈から出るべき枝,たとえばオトガイ下動脈,上行口蓋動脈がしばしば舌動脈から出ている.
顔面動脈は舌動脈の上方で外頚動脈から出て,舌動脈と同じようにまず茎突舌骨筋および顎二腹筋の後腹の内側を顎下腺の下まで走り,この腺で被われるが,そこでは下顎体の内側にある.ついで咬筋付着部の前で下顎の下縁を曲がって顔面に出て口角にいたる.そこから鼻の側面をへて内眼角の近くに達し,眼動脈の鼻背動脈と吻合して終る.
局所解剖:この動脈はその経過の全体にわたってはなはだうねっているが,これは分布している部分が非常によく動きうることにもとついている.咬筋の前縁でたやすく探しだせるし,また下顎骨にむかつて圧迫しうる.わりあいまつすく・に走っている顔面静脈は顔面動脈と咬筋の前縁との間にある.顔面神経の枝は顔面動脈と交わり,眼窩下神経の一部ほこの動脈の後を走っている.
顔面動脈には頚枝と顔面枝とがある.
A. 顔面動脈の頚枝
a)上行口蓋動脈A. palatina ascendens.これは咽頭の側壁を(茎突舌筋と茎突咽頭筋の間で)ほとんど垂直に口蓋帆に向かって上り,口蓋帆のほかに扁桃茎状突起の筋群,耳管に分枝する.この動脈の代りをしばしば上行咽頭動脈の枝がなしている.
b)扁桃枝R. tonsillaris.小さな枝で咽頭の側方を上方にすすみ頭咽頭筋を貫き多数の枝に分れて口蓋扁桃と舌根の外側部に終る.
c)腺枝R. glandulares. 幹が顎下腺のそばを走る間に出て,この腺とその附近のリンパ節にいたる多数の小枝である.
d)オトガイ下動脈A. submentalis(図639, 640)
これは顔面動脈の頚枝として最も太いものである,顎舌骨筋の下面を前方にすすんでオトガイにいたるもので,顎下腺と付近の筋に枝をあたえ,そこでそれぞれ1本の浅枝と深枝に分れる.
最終更新日13/02/03