Band1.556   

9. 上行咽頭動脈Arteria pharyngica ascendens

 上行咽頭動脈は細くて長い動脈で,外頚動脈からその起始の近くで起り,咽頭の側壁を上方に走り頭蓋底にまで達する.その枝は咽頭,深頚部の軟部,および頭蓋底に分布する.そのほかに不規則ながら小枝を頚部脊椎の前面にある諸筋にあたえている.上行咽頭動脈の枝は次のごとくである.

a)咽頭枝Rr. pharyngici.通常2本の細い方の枝は中および下咽頭収縮筋(舌骨咽頭筋と喉頭咽頭筋)を養う.1本の太い方の枝は上咽頭収縮筋(頭咽頭筋).耳管,口蓋扁桃にいたる.

b)後頭硬膜動脈A. meningica occipitalis.この動脈は頚静脈孔か破裂孔,頚動脈管または舌下神経管を通って脳硬膜に達し,そこに枝を分かっている.

c)下鼓室動脈A. tympanica inferior.鼓室神経とともに鼓室小管を通り中耳の岬角で枝分れする.

 上行咽頭動脈の枝に上行口蓋動脈および翼突管動脈の枝と吻合する.

 変異:上行咽頭動脈はもっと上方で出ていることが時どきあり,また時として後頭動脈から出たり内頚動脈から出たりする.重複していることもあり,またしばしば上行口蓋動脈がこれから出ている.

内頚動脈Arteria carotis interna (図639644)

内頚動脈は脳, 眼窩の諸器官,および前頭部に枝を送る.甲状軟骨の上縁の高さにおいて総頚動脈から出て,ほとんどまっすぐに頚動脈管の外口に向い,この管のなかを通りぬけて蝶形骨の頚動脈溝にいたり,そこでは海綿静脈洞のなかにある.小翼突起の内側で脳膜を貫くが,そのさい急に後上方にまがり,そこで終枝に分れる.

 局所解剖:頚部では内頚動脈は初めに外頚動脈の外側でやや後方にあるが,ついで外頚動脈の後方で内側にまがる.そこでは頭長筋と椎前筋膜のすぐそばにあり,また内側に接して咽頭がある.咽頭壁のそばを上行するときには,これと外頚動脈とのあいだに茎突舌筋と茎突咽頭筋がある.内頚静脈を伴っているが,この静脈は内頚動脈の後外側にあって頭蓋に達するのである.内頚動脈と内頚静脈の間でその後方を迷走神経が走り,さらに後内側に交感神経幹がある.

 起始から終枝に分れるまでの間に前に述べたことからわかるように内頚動脈の走行が何回かまがっている.全部で5つの弯曲が区別されるが,そのうちの2つは頚部に,あとの3つは頭部にある.第1の弯曲はすでに述べたように外頚動脈の後方で外側から内側に向うもので,下方の頚部弯曲というべきであり,後外側に突出する弧をなしている.第2のものは上方の頚部弯曲であって,頭蓋底のすぐ下方にあり,前内側に突出する弧をなしてまがる.これら2つの頚部弯曲を合せると逆のS字形をしていることになる.ついで頚動脈管内における第3の弯曲がつづいている.ここで今まで上方にすすんでいた方向が矢状方向に変る.第4の弯曲は軽くS字状にまがっていて,蝶形骨体の側壁で頚動脈溝と海綿静脈洞のところにある.第5弯曲は同じく蝶形骨体の側壁にあって,前方に突出した弧を画いている.

 これらすべての弯曲がおそらく脳や眼に血液を供給する機構について問題となるであろう.どんな役割を演ずるかについては,さらに内頚動脈の一部がこの動脈に密接して取りかこむ骨内の管を小さな静脈叢と交感神経の網だけを伴って走っていること,およびこの動脈の通り道が非常によく保護されていることが重要な意味をもつであろう.

 神経:交感神経によるが,また半月神経節からも枝を受ける.

 変異:まれに内頚動脈が大動脈弓から直接に出る.また少数の例でこの動脈が全く欠けている.1899年に記載された1例では左の内頚動脈が頭蓋の近くで左椎骨動脈を出し,これが舌下神経管を通って頭蓋腔に達していた.

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最終更新日13/02/03

 

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