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海綿静脈洞のなかで内頚動脈が迷行動脈A. aberransを出し,これが後方に向かって脳底動脈と吻合していた(F. Hochstetter).このような変化のさいには脳の回転が異常な配列をなしていることがある(M. Flesch).

内頚動脈の枝.頚部では内頚動脈から1本も枝が出ていないのが普通である.頚動脈管のなかで細い頚鼓小管枝R. caroticotympanicusを鼓室に送りだし,これは鼓室でほかの動脈の小枝とつながる.第2の小枝は翼突管動脈にいたる.海綿静脈洞のなかでは数本の小枝が出て,静脈洞の壁やこの洞のなかを走る神経および半月神経節,また下垂体に達している(図643).本来の枝分れは頭蓋腔の内部ではじめてみられるのである.

1. 眼動脈Arteria ophthalmica(図643)

 眼動脈は小翼突起の内側で,内頚動脈の最後の弯曲の凸側から出て,視神経の下外側または下内側に伴なって,これと共に蝶形骨の視神経管を通り眼窩にいたる.

 そのさい通常は視神経の下でまず外側にまがり,ついで弓状をなして視神経の上を越えて,眼窩の内側壁にいたり,上[眼球]斜筋の下で軽くうねりつつ前方にすすみ,内眼角の近くでたがいに上方と下方に分れてゆく2本の終枝,内側前頭動脈A. frontalis Inedialisと鼻背動脈A. dorsalis nasiとになる.つまり眼動脈は視神経のまわりでラセン状を呈し,その途中で多数の枝を出している.

 視神経の下をずっと走るのはヨーロッパ人では15%,日本人では6.1%である(Adachi).

a)網膜中心動脈A. centralis retinae.細い血管で,眼動脈から出る最初の枝であり,それのみ単独で,あるいは内側の眼球中膜動脈といっしょに眼動脈が上方にまがる所から出て,たいてい眼球からわずか0.6~0.8cm離れたところで下方から視神経の実質中にはいり,その中軸を通って網膜に向い,そこで多数の細い枝に分れる.

b)涙腺動脈A. lacrimalis.涙腺動脈は視神経の外側で眼動脈の後部から起り,外側直筋の上縁に沿って走り涙腺にいたる,数本の枝が付近の眼筋にゆく.終枝はさらに前方に向い眼球結膜と眼瞼に達する.1本あるいは2本以上の小枝が頬骨を貫いて側頭窩および眼瞼にいたる.これを外側眼瞼動脈Aa. palpebrales temporalesという.これらは少数の枝,すなわち結膜小枝Ramuli conjunctivalesを結膜にあたえている.

 涙腺動脈の中央部から1本ないし数本の硬膜枝Ramimeningiciが出て脳硬膜に達するが,そのさい上眼窩裂あるいは硬膜眼窩孔(189頁参照)という特別な管を通って頭蓋腔に入る.頭蓋腔内でこれは中硬膜動脈の枝と吻合する.

c)筋枝Rr. musculares. 筋枝はその配置にある程度の個体的相違がある.その一部は眼動脈から独立して発し,一部はいっそう大きい枝からさらに枝分れして出ている.多くの場合,かなり太いそれぞれ1太の上枝と下枝があって,これらから個々の枝が出て,眼窩の上部と外側にある筋は上枝により,下部と内側にある筋は下枝によって養われるのが普通である(Arnold).また下枝のほうが上枝よりいっそう太いことが多い.

 毛様体小枝Ramuli ciliaresはたいてい眼動脈の前方部の筋枝から分れて,角膜縁のやや後方で強膜に入りこむ.すべての毛様体動脈は眼球の中でたがいに数多くの吻合をなしている.

 強膜上小枝Ramuli episcleralesは毛様体小枝から出る.これは輩摸の最外層で広いすきまをもつ網を作り,この網が脈絡膜動脈とつながり,また結膜小枝Ramuli conjunctivalesを眼球結膜にあたえている.

d)眼球中膜動脈Aa. tunicae mediae oculi.この動脈は内外両側の2本の枝として眼動脈の幹またはその後方部の枝から出て,たびたび枝分れして視神経の両側をうねりつつ前方にすすみ,視神経が眼球に達するところの周囲で強膜を貫通する.

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最終更新日13/02/03

 

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