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e)後下小脳動脈A. cerebellaris inferior posterior(図644).この動脈は椎骨動脈そのものから出る枝のうもでいちばん太く,ときに脳底動脈から出ていることもある.外側後方にすすみ,小脳の下面にゆくが,そこで後方と外側の2太の主な枝に分れる.

脳底動脈Arteria basialis(図644)

 この動脈は左右の椎骨動脈がいっしょになってできる.そして橋の正中溝を上方にすすみ,ほぼ橋と同じだけの長さのものである.多数の小枝と若干のわりあい太い枝を出す.

f)橋枝Rr. pontis.これはすぐ橋にはいる.

g)迷路動脈A. labyrinthi.細い動脈で多くは前下小脳動脈から出るが,Adachiによると後下小脳動脈からも出て,内耳神経とともに内耳道に入る.内耳神経と同じように,この動脈も若干の枝に分れて前庭の2つの小嚢と三半規管(前庭動脈A. vestibuli)と蝸牛(蝸牛動脈A. cochleae)に達する.

h)前下小脳動脈A. cerebellaris inferior anterior.これは脳底動脈のまん中のあたりから出て小脳の下面の前部とその前縁に達する.

i)上小脳動脈A. cerebellaris superior.これは前端の分岐部の近くで脳底動脈から出て小脳天幕のすぐ下で小脳の上面に分布している.

k)後大脳動脈A. cerebralis posterior.左右の後大脳動脈が脳底動脈の終枝であって,上小脳動脈と平行して外側に走り,大脳脚をまわって大脳の下面の後部に達する.大脳脚では後脈絡叢動脈A. chorioidea posteriorという1本の小枝が出て四丘体の上を越えて脈絡縄織に向かっている.後大脳動脈は後交通動脈A. communicans posterior によって内頚動脈とつながり,かくして大脳動脈輪Circulus arteriosus cerebriができ上る.

大脳動脈輪Circulus arteriosus cerebri (図644)

 これは脳にゆく4本の主な動脈幹,すなわち左右の椎骨動脈のあいだにある動脈の結合である.

 この動脈結合は次のようにできている.左右の内頚動脈から出る前大脳動脈が前交通動脈によってつながる.同じく内頚動脈から出る後交通動脈は脳底動脈の終枝である左右の後大脳動脈と後方でいっしょになる.この動脈輪はトルコ鞍のまわりに位置をしめ,脳底において視神経交叉, 終板,漏斗, 灰白隆起,下垂体,乳頭体,脚間穿孔質,大脳脚の一部を取り囲んでいる.前大脳動脈は大脳半球の内側面で頭頂後頭溝までを養い,また外套稜Mantelkanteをやや越えて広がっている.中大脳動脈は大脳半球の外面と大脳基底核を養い,脈絡叢動脈により大脳内の脳室にも分布する.後大脳動脈は後頭葉の全部の側頭葉の下面を養っている.

 変異:右椎骨動脈は右鎖骨下動脈が大動脈弓の下部から発しているような場合にはたいてい総頚動脈から出るのである,またこれが直接に大動脈弓から起ることもあり,非常にまれであるが下行大動脈から出ることもある.--左椎骨動脈は右のものよりもいっそうしばしば大動脈弓から出ることがある.若干の例で左椎骨動脈が2本以上の根をもって起り頚の下端で1本の幹に集まるのがみられている.その根が2本とも大動脈弓から出ていたこともあり,2本とも鎖骨下動脈から出ていることもあったが,また1本ずつ大動脈弓と鎖骨下動脈から出ていたこともある.--また椎骨動脈が第5か第4,または第3頚椎の肋横突孔に入りこむ例があり,さらに例外的に第7頚椎に入りこむ例がある.--頚部では鎖骨下動脈に属する他の枝が分布する領域にまれに椎骨動脈が枝をあたえていることがある.--ときとして1側の後大脳動脈が内頚動脈から出ている.脊髄と脳の脈管についてはなお神経学をも参照されたい.

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最終更新日13/02/03

 

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