Band1.564   

甲状頚動脈Truncus thyreocervicalis (図640, 645, 648)

 これは太くて短い幹であって,前斜角筋の内側縁のすぐそばで鎖骨下動脈から分れ,まもなく3本ないし4本の枝となっていろいろな方向にたがいに別れてゆく.いちばん多いのは幹から下甲状腺動脈上行頚動脈,浅頚動脈,肩甲上動脈の4つが出る場合であるが,そのほか頚横動脈がこれから出ることもまれではない.また他の鎖骨下動脈に属する枝がこれから出ていることもある.

2. 下甲状腺動脈Arteria. thyreoidea caudalis (図640, 648)

 これは上行部と横走部とからなり,上行部は頚長筋の前を上方にすすみ,第6頚椎の肋横突起にいたり,ついで直角または鋭角をなしてまがり,頚部の太い血管群の後を内側に向い,甲状腺の後がわに達する.その枝には次のものがある.

a)腺枝Rr. glandularesにはたいてい上枝と下枝があり甲状腺に分布する.

b)咽頭枝,食道枝,気管枝Rr. pharyngici, oesophagici, tracheales.気管への枝の1つは気管支を養うことにあずかっている.

c)下喉頭動脈A. laryngica caudalis.これは下甲状腺動脈の幹からかまたは腺枝のうちの上枝から出て,気管の後壁を上方にすすみ,喉頭咽頭筋の下で喉頭の内部にはいり,そめ筋と粘膜に分布している.

 変異:下甲状腺動脈が独立して鎖骨下動脈から発していることがあり,また総頚動脈あるいは大動脈弓から出ていることもある.1側に下甲状腺動脈の重複が見出されたことがある.また両側の下甲状腺動脈が単一の幹をもって始まり気管の前で左右の2本に分れていることがある.

 少数の例ではこの動脈が1側または両側において欠 けている(ヨーロッパ人で1.7%日本人で4.6%, Adachi).そのさい上甲状腺動脈の枝がその分布区域にきている.まれに(Yazutaによると1.6%, Anat. Anz., 63. Bd. )この動脈が椎骨動脈の後方にある.

3. 上行頚動脈Arteria cervicalis ascendens (図640, 648)

 この動脈は下甲状腺動脈の初まりの部分から起ることが最も多く,甲状頚動脈から出ていることはそれよりまれである.横隔神経と並んで前斜角筋と頭長筋のあいだを上方に走り次の枝を出している.

a)脊髄枝Rr. spinales.これは第4頚椎から第6頚椎までのあいだで椎間孔を通って脊柱管の中に達し,脊髄とその被膜および椎体に分布している.

b)筋枝Rr. muscularesは付近の筋にいたる.わりあい太い1本の枝(深枝Ramus profundus)が第5頚椎の肋横突起の下を後方にすすみ深頚動脈の枝と吻合している.

 変異:上行頚動脈はまれに浅頚動脈,肩甲上動脈,鎖骨下動脈から出る.またはなはだまれなことではあるが,全く欠けていることがある(Yazuta, Anat. Anz., 63. Bd).

4. 浅頚動脈Arteria cervicalis superficialis (図640, 648)

 この動脈は横の方向にすすみ,まず胸鎖乳突筋に被われ,ついで広頚筋にだけ被われて肩中鎖骨三角を通り僧帽筋にいたる.

 僧帽筋の前縁にはいりこんで近くの筋やリンパ節や皮腐に枝をあたえる.しばしば上行頚動脈と共通の幹をなして起る,また頚横動脈といっしょに出たり,あるいはここにあげた3つの動脈が口径の大きい共通の幹をもって起る場合がある.

5. 肩甲上動脈Arteria suprascapularis (図640, 646, 648, 649)

 この動脈はたいてい甲状頚動脈の枝であって,前斜角筋の前で,胸鎖乳突筋の後を走って鎖骨にいたり,この骨に被われて外側にすすみ,鎖骨下動脈と交叉し,肩甲横靱帯の上を棘上窩にいたり,ついで肩甲頚に沿って棘下窩に達する.

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最終更新日13/02/03

 

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