Band1.574   

上腕動脈Arteria brachialis

 上腕動脈は大胸筋の下縁で腋窩動脈からはじまり,橈骨頚の高さすなわち肘窩より約1横指だけ遠位のところまで達しており,ここで橈骨動脈を出し,ついでその終枝である尺骨動脈と総骨間動脈とに分れる.

 局所解剖:その走行の途中で上腕動脈は尺側上腕二頭筋溝の中を下方に走り,きわめて徐々に上腕の内側から外側の方に向う.そのすすむ方向は腋窩の中央から上腕骨の尺側上顆と橈側上顆のあいだの中点に引いたと仮定した線に一致している.肘窩の近くまではこの動脈がかなり表層を走り,その上には上腕二頭筋の縁と上腕筋膜,および皮膚が被っているだけである.肘窩では円回内筋と腕橈骨筋との間の溝に入り,上腕二頭筋腱膜Lacertus fibrosusの下にかくれる.また上方ではこの動脈が上腕三頭筋の長頭と烏口腕筋の間にあり,下方では上腕二頭筋の縁と上腕筋との間で尺側上腕筋間中隔の前にある,前腕では浅層と深層の両屈筋群のあいだにある(図650).

 これに伴行する上腕静脈Venae brachialesは2本あって,動脈の両側に密接し,この2本が短い横走枝によりたがいにつながっている.このようにして動脈のまわりに多くの場所で血管輪Gefäßringeが作られている.皮下を走る尺側皮静脈V. basilicaは,筋膜をへだてて上腕動脈の下半部の内側にある.肘窩では肘正中皮静脈がやはり皮下にあって,この動脈に接して斜めに通り過ぎる.

 正中神経N. medianusは初めから終りまでこの動脈と伴行する.腋窩ではこの神経が上腕動脈の外側にあり,上腕の中央の高さではその掌側に,さらに下方になると動脈の内側にある.尺側前腕皮神経を除いてそのほかのすべての神経はすでに腋窩でこの動脈から離れている.

 神経:上腕骨に分布する骨神経から細い枝がくる.また(HahnとHunczekによると)上腕のおよそ中央の高さで橈側前腕皮神経から出る1本の枝,および同じ神軽から肘関節の高さで出る2本の校がこの動脈に来る.枝について述べると,上腕動脈は若干の小さい筋枝Rami muscularesを付近の諸筋にあたえている.さらに上腕深動脈,近位および遠位の尺[側]側副動脈,橈骨動脈,尺側反回動脈をだす.ついで上腕動脈はいろいろな様式で終枝,すなわち尺骨動脈と総骨間動脈および正中動脈に分れるのである.

1. 上腕深動脈Arteria profunda brachii (図651)

 この動脈は上腕動脈の後内側壁から出て大円筋の縁に密接し,後方にすすんで上腕三頭筋の橈側頭と尺側頭の間のすきまに入り,橈骨神経とともに上腕三頭筋尺側頭の起始の上縁に沿って橈骨神経管を通りぬける.上腕三頭筋にかこまれて初めは上腕骨の後面上にある.ついでその外側面に達し,榜側側副動脈となって終る.上腕深動脈は筋枝のほかに次の枝を出している.

a)三角筋枝R. deltoideusは三角筋の下部にいたる.

b)上腕骨栄養動脈A. nutricia humeri.これは小結節稜の下方で,たいていそこに目立って存在する上腕骨の栄養孔の中にはいる.

c)中側副動脈A. collateralis media.これは上腕骨の後面でまず上腕三頭筋の尺側頭と橈側頭のあいだを通り,つひで上腕骨の外面に接しつつ尺側頭の筋質の内部を肘の高さまで下行し,そこにある肘関節動脈網Rete articulare cubitiの中に入りこむ.

d)[]側副動脈A. collateralis radialis.上腕深動脈の最終の枝である.これは上腕の外側面で橈側上腕筋間中隔の後を下方にすすむ, そしてそれぞれ1本の掌側枝Ramus volarisと背側枝Ramus dorsalisとに分れ,前者は腕橈骨筋の起始め掌側にあって,橈側回旋動脈と吻合している.後者は肘関節動脈網にいたる.

 変異:上腕深動脈から近位尺側副動脈がヨーロッパ人では8.6%日本人では16.3%において出る(Adachi).

 S.574   

最終更新日13/02/03

 

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