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 浅掌動脈弓の凹側縁から小さい枝が近位方向にでていって手掌腱膜などを養っている.それに対して凸側縁からは3本の強い総掌側指動脈が出る.これらは中手骨頭の近くで二叉に分れる.このようにして指の掌側に分布する6本の動脈,すなわち固有掌側指動脈Aa. digitales volares propriaeができて,これらが第2ないし第5指の掌側でたがいに向きあった側縁に沿って走る.しかし固有掌側指動脈は各指の掌側だけを養うのではなくて,中節から指頭までの背側をその背側枝によって養うのである.

 神経:正中神経が出す尺骨神経との交通枝からの細い枝による.HahnとHunczekの研究によれば尺骨神経と正中神経から多数の小さい枝が浅掌動脈弓と指動脈に達するという.

 さて小指の尺側を除くと指は全て掌側の動脈から血液をうけている.第5指の尺側にいたる枝は尺骨動脈の浅掌枝(まれであるが)から来るか,この動脈の深掌枝からでている.

 三本の総掌側振動脈はそれぞれ指の屈筋の腱のあいだで虫様筋の上を遠位に向かって走り,中手骨の小頭にいたる.そして固有掌側指動脈に分れる前に,たいていそれぞれ相当する背側中手動脈と深掌動脈弓からの小枝を受けている.固有掌側指動脈は各々の指において遠位にすすむとともに少しずつたがいに近づく形勢を示し,しかも所属する神経に被われて指の縁に沿って遠位方に走り,ところどころで深部にある横走の吻合枝をたがいに送りだし,また中節と末節では指背に枝をあたえ,さらに末節の爪粗面の近位でそれぞれ1本の掌側の強い終動脈弓と背側の弱い終動脈弓を作り,掌側および背側とも多数の枝に分れて終る.

深掌動脈弓Arcus volaris profundus (図658)

 深掌動脈弓は主に橈骨動脈の深掌枝によって作られる.これは浅掌動脈弓より弱い弯曲を示すが,いっそう長くてまたいっそう平らである.第1骨間隙の近位端で始まり,手掌の深部で第4中手骨に向かって横にすすみ,そこで尺骨動脈の深掌枝とつながる.

 この動脈弓は尺側に向つ.やや細くなり,中手骨の近位端と骨間筋の上にあるから浅掌動脈弓よりも手根骨に近いわけである.短母指屈筋,母指内転筋,各指の屈筋の諸腱,第4指の小筋群がこれを被っている.

  この動脈弓の凹側縁からは小さな枝が出るだけである.凸側縁からは掌側中手動脈Aa. metacarpicae volaresが出て第1・第2・第3・第4骨間隙を遠位に向かって走り,中手の遠位端でそれぞれ総掌側指動脈または固有掌側指動脈とつながる,骨間隙に入るところで掌側中手動脈ほそれぞれ1本の穿通枝Ramus perforansを出す.この枝は骨間筋のあいだを通って背側にいたり,相当する背側中手動脈A. metacarpica dorsalisと結合する.背側手根動脈網がよく発達していないときには背側中手動脈が掌側中手動脈の穿通枝から出ていることがある.

 変異:手の動脈はその配置の様子が非常に著しい変化を示す.いちばん多い変異は前腕の2つの動脈のうちの1つが普通よりも弱ぐなっていたり,その枝の1本が普通より弱くなっていて他の1本の動脈がそれに応じてよく発達しているという場合である.浅層の動脈枝が減少し,深層のものが増加していることが多い.

 次に変異を個々についてみると,しばしば浅掌動脈弓が弱くなっていたり,発達していなかったりする.その枝のうち指の動脈の1本(多くは第3と第4の指の動脈)が欠けていたり,あるいは指の動脈の2本または全部が欠けていたりする.後者の場合にはまた浅掌動脈弓も存在していないで尺骨動脈は第5指の筋に小枝をあたえた後に深掌動脈弓に移行している.

 多くの例でこのように浅掌動脈弓の発達が悪い場合にはそれを補なって深掌動脈弓が強大になっており,その掌側中手動脈が指の動脈を出している.

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最終更新日13/02/03

 

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