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 胸大動脈の枝はすでに述べたように胸壁とそのなかに囲まれている内臓に分布する.その壁側枝は全体としていっそう強いものであり,臓側枝は重要な気管支動脈を除くと概して弱いものである.

 神経:交感神経の縦隔枝と迷走神経による.

臓側枝viscerale Äste
1. 気管支動脈Arteriae bronchales

 気管支動脈はかなりな大きさの血管で肺の組織を養うものである.この動脈は気管支の分枝に伴って肺の全体にはいりこみ,同時に気管支リンパ節を養っている.気管支動脈の数と起り方にはいくらか変化がある.

 右気管支動脈A. bronchalis dextraは右側の第3肋間動脈から出るか,あるいは左気管支動脈と短い共通の幹をもって直接に大動脈から出ている.左気管支動脈A. bronchalis sinistraは2本(1primaと2secunda)あることが普通である.この2本とも胸大動脈の初めのところからわずかの間隔をおいて発する.たいていの場合,左右の気管支動脈はそれぞれの側の気管支の後面に向かって走り,気管支のすべての,分枝に伴って肺の内部にひろがる.気管支はなおそのほかに大動脈弓の凸側縁から出る不定性の気管支枝Rr. bronchales(図636)および内胸動脈からの気管支枝Rr. bronchalesをうけ入れている.

 変異:右気管支動脈については,これが直接に大動脈,内胸動脈,または下甲状腺動脈から出ることが観察されている.さらに鎖骨下動脈から左右に共通な幹をもって出ていることもあった.ほかの1例では左右に共通の幹が2本あって,この2本からそれぞれ左右の肺に枝が送りだされていた.そのうちの1本は内胸動脈から,ほかの1本は最上肋間動脈から出ていた.ときおり左右の各肺に向かって初めから2本に分れて出てゆく気管支動脈がみられている.

2. 食道動脈Arteriae oesgphagicae (図636)

 これはふつう4~5本の小幹であるが,ときにはもっと多いこともあり,大動脈の前壁または右壁から出て,斜め下方に走って食道に達している.

 この動脈の下部のものは胃の冠状動脈の上行枝とつながり,上部のものは下甲状腺動脈の枝とつづいている.

3. 心膜枝Rami pericardiaci 変化に富む細い動脈で心膜の後面にいたる.
壁側枝parietale Äste
4. 縦隔枝Rami mediastinales

 多数の小枝であって,縦隔の後部にあるリンパ節と疎性結合組織におもむく.

5. 上横隔動脈Arteriae phrenicae thoracicae

 胸大動脈の下部から出る小枝で横隔膜の腰蔀の胸腔面にいく.

6. 肋間動脈Arteriae intercostales (図636, 647, 661)

 縦に並んだ2列をなして分節的配置をなし,胸大動脈の後壁からおこるたいてい10対の動脈である.椎体の左右両側面に接してだいたい横の方向に走って肋間隙にいたり,背枝Ramus dorsalisを出し,ついで本来の肋間動脈A. intercostalisとしてさらに走っていく.

 第1と第2の肋間隙に属している肋間動脈はたいてい肋頚動脈の枝であるから,大動脈からの肋間動脈は上のごとく通常10対である(567頁).大動脈の位置が左側にあるので右側の肋間動脈は左側のよりも長くて,椎体の前面を越えて左から右後方に走って分岐部に達するのである.それだけ左側の肋間動脈の長さが短い.

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最終更新日13/02/03

 

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