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そして前方ではこれに向かってやって来る内胸動脈の肋間枝および腋窩動脈からの胸郭枝とつながっている.

 大動脈から出る最初の肋間動脈は第3肋間隙にあり,これはしばしば鎖骨下動脈から出る肋頚動脈の枝である最上肋間動脈につながる.最下の3対の肋間動脈は腹部の筋のなかを前方に伸び,そこで同側の筋横隔動脈の側枝とつづいている.また側方では下横隔動脈,下方では腰動脈の枝との結合がある.いちばん下にある肋間動脈は第12肋骨の下を走るので,肋下動脈A. subcostalisとよばれる.

 肋間動脈の幹からは,その幹が肋骨の下縁に接したところで,すなわち肋骨角の近くにおいて細くて長い肋骨上枝Ramus supracostalisという枝を出す.これは斜めにすぐ下の肋骨の上縁にいたる.この枝は幹と同じように肋骨と肋間筋とを養い,また近くの動脈,すなわちそれに向つ.やって来る内胸動脈の肋間枝の枝と吻合する.それゆえ各々の肋間隙では定型的には重複した動脈弓があって,大動脈と左右の内胸動脈のあいだに,これらをつなぐ2本の動脈枝があるわけである.

 皮膚にいく枝には(胸部および腹部の)外側皮枝Rami cutanei laterales(pectorales, abdominales)と(胸部および腹部の)前皮枝Rami cutanei ventrales(pectorales, abdominales)がある.前者はさらに後小枝Ramulus dorsalisと前小枝Ramulus ventralisに分れる.乳腺にいく枝は外側および内側乳腺枝Rr. mammarii mediales et lateralesという.肋間動脈が臓側枝をも出すことがあることはすでに述べた(気管支動脈の項参照, 592頁).

 肋間動脈の神経はBraeuckerによるとまず交感神経の縦隔校から,ついで交通枝の範囲ではそのあたりにある神経叢から来ている.さらに前方では肋間神経からひきつずき細い枝が出てこの動脈に達する.

d)腹大動脈Aorta abdominalis

 横隔膜の大動脈裂孔を境としてそれ以下の大動脈の部分が腹大動脈Aorta abdominalisと名づけられる.これは第12胸椎の高さで始まり,第4腰椎の高さ,すなわち臍の高さよりごくわずか下方で正中線より左において左右の総腸骨動脈Aa. ilicae communesというもっとも強い枝を出し,突然に細くなって尾動脈に移行する(図600, 662).

 局所解剖:腹大動脈の前壁は下方にすすむにつれて腹腔神経叢, 膵臓と脾静脈,十二指腸の下部,小腸間膜根,左腎静脈,腹膜によって次々と被われている.

 下大静脈は腹大動脈の右側にあり,上方ではこの2つの血管のあいだに横隔膜の腰椎部の右脚がある.腹大動脈の初まりのところでは右後がわに胸管の初まりがあり,この管は腹大動脈とともに大動脈裂孔を通って胸腔にはいる.大動脈の上に密接して見事な交感神経叢があり,その両側には腰リンパ節および多数のリンパ管がある.腹大動脈は多数の枝を出すが,これを壁側枝臓側枝に分ける.壁側枝には下横隔動脈,腰動脈,総腸骨動脈があり,これらはすべて対をなすが,尾動脈は不対性の壁側枝として数えられている.臓側枝には腹腔動脈,上腸間膜動脈,下腸間膜動脈,腎上体動脈,腎動脈,精巣動脈(女では卵巣動脈)がある.これら臓側枝のうち前の3者は不対性の動脈である(図662).

 全例の3/4より多い例において大動脈の分岐点の高さが第4腰椎またはその下の椎間円板のところにある.このことはHeidsieckの研究によってふたたび確かめられた.だいたい9例に1例の割合で分岐部がもっと下方にあり,11例に1例の割合でもっと上方にある.大動脈の分岐点が右腎動脈の起始のところにある1例がHallerによって報告されている.

 分岐の状態に関するもっとも著しい変異の1つとして,腹腔動脈より上方で肺に行く1本の大きな枝を出しているものがある.この枝は食道とともに上方にすすみ食道孔を通って胸腔に達し,そこで2本の枝に分れ左右の肺の下葉の後部にいたる.大動脈の枝から分れた枝がふたたび大動脈の幹に戻っていることがある.

 男女の差:Heidsieckによると女では腹大動脈の大きな枝の起始および“分岐(総腸骨動脈の)”が概して男の場合よりもっと下方にある(Anat. Anz., 66. Bd.,1928).

 年令の差:老人では分岐点がいっそう下方にあることが多い(Adachi).

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最終更新日13/02/03

 

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