Band1.596   

臓側枝
1. 腹腔動脈Arteria coeliaca (図636, 662664)

 腹腔動脈は1~2cmの長さで短いが太い動脈で,大動脈が横隔膜を通りすぎてすぐか,あるいはまだ大動脈裂孔のなかを通っている所でその前壁から始まる(図663).

 これはまっすぐ前方に向い,小網の後方にあって肝臓の尾状葉の左縁に接している.また膵臓の上縁の上にのっていて,その両側に交感神経の腹腔神経節がある.

 腹腔動脈は1度に3本の枝に分れるか,あるいはまず1本の枝を出して,それから2本に分れる.その3枝とは左胃動脈・総肝動脈・脾動脈である.

 変異:胆腔動脈は起始のところでなおその一部が横隔膜で被われていることが多い.ときとしてこの動脈の枝が大動脈から直接に出る枝となっている.少数の例では腹腔動脈から2本だけの枝が出ていて,この場合に総肝動脈がほかの動脈(たいていは上腸間膜動脈)から出るのである.また腹腔動脈から4本の枝が出ていることもある.このさいにはもう1本別の胃動脈か十二指腸の動脈,あるいは1本ないし2本の横隔膜動脈がこの動脈から出ている.またかなり多くの例で腹腔動脈と上腸間膜動脈が1本の共通の幹をもって大動脈から起るのが観察されている.

a)左胃動脈Arteria gastrica sinistra (図663, 664)

 この動脈は腹腔動脈の枝としてはもっとも弱いが右胃動脈に比ぺるとはるかに太い.上方にかつ左に向かって,噴門にいたり,ついで胃の小選に沿って左から右にすすむ.その途中で枝を前後両がわに出し,右方ではこれに向かって来る固有肝動脈の右胃動脈とつながる.また比較的小さい枝を噴門と食道の下部に送っている.

 変異:ときとして左胃動脈が大動脈から直接に出ている(ヨーロッパ人では6.5%,日本人では7.5%, Adachi).ときどき重複しており,またこの動脈から第2の肝動脈が出ていることもある.

b)総肝動脈Arteria hepatica communis

 腹腔動脈の2番目に太い枝であるが,胎児ではこれがいちばん太い枝である.右に向かってある距離走ってから2本の主な枝,すなわち固有肝動脈A. hepatica propriaと胃十二指腸動脈A. gastroduodenalisに分れる.固有肝動脈は小網の肝十二指腸部のなかで右上方に向い,網嚢孔の前を通って肝門に達する.そのさい門脈の前方にあり,総胆管の左側に接している.第2の主枝,胃十二指腸動脈は幽門の後で膵臓の前を下方にすすむ.

1. 固有肝動脈A. hepatica propriaは少し走ってから右胃動脈を出し,肝門に入る前に左枝と右枝の2本の終枝に分れる.

α)右胃動脈A. gastrica dextra.この動脈は左胃動脈よりも弱くて,胃の幽門部の上縁に向い,小弯に沿って左胃動脈の方にすすんでこれとつながる.多数の小枝を胃の前後両面にあたえる.この動脈はときとして胃十二指腸動脈の枝となっている.

β)左枝R. sinisterは固有肝動脈の枝で肝門の左側で肝臓のなかに入る.ときどき小さい肝葉にも枝をあたえている.

γ)右枝R. dexterは固有肝動脈の2本の終枝のうちの太い方で,肝門の右側に向かってすすむが,肝臓の内部に入る前に2本ないし3本の枝に分れる.胆嚢管のそばを通るときに胆嚢動脈A. vesicae felleaeを出す.この動脈は胆嚢の自由面と付着面に広がっている.

 S.596   

最終更新日13/02/03

 

ページのトップへ戻る