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 変異:脾動脈が大動脈から独立した枝としておこる場合はヨーロッパ人で433例中7例あったが,日本人では252例中1例もなかった(Adachi).

2. 上腸間膜動脈Arteria mesenterica cranialis(図662, 665)

 上腸間膜動脈は太い動脈で,十二指腸の下行部以下の小腸の全体,および大腸の半分に血液を供給する.この動脈は腹腔動脈のやや下方で第1腰椎の高さで大動脈の前壁からおこる.

 局所解剖:この動脈の前壁には少しの長さだけ膵臓が接している.膵臓の下縁からこの動脈が出て来るところで十二指腸の終りの部の前を通って小腸間膜に達し,その両葉の間にはいる.動脈の幹は両葉のあいだを軽く左方に凸の弧をなして右下方に走りながら,多数のかなり太い枝を出して次第に細くなっていく.右腸骨窩のところでこの幹の下端は右下方に曲り,幹の凹側縁から出た枝の最後のものと吻合する.凸側縁から出る枝は空回腸を養い,凹側縁から出る枝は大腸の諸部,十二指腸と膵頭の一部を養う.そのさいこれらの枝は互いの間で多数の結合をもっている.

 この動脈の枝は次のものである.

a)下膵十二指腸動脈A. pancreaticoduodenalis caudalis.この動脈は幹の凹側縁から出る最初の枝で膵臓の後で出ている.膵臓と十二指腸の下行部の間で,後者の凹側に沿ってすすみ固有肝動脈から出る上膵十二指腸動脈につながる(598頁および図665参照).

b)空腸動脈,回腸動脈Aa. jejunales, Aa. ilicae(図665).空腸と回腸を養うもので,幹の凸側縁すなわち左側から出る多数の枝である.たいてい12~16本あって,たがいに近よって相並んで発し,腸間膜の両葉のあいだを通って腸にいたる.これらの枝は幹を少し離れてからそれぞれ2本の枝に分れ,その枝はそれぞれ隣のものから出る同じような枝と合して弓形をつくる.この動脈弓から新しい枝が始まり,わずか走ってからふたたび枝を出して,いっそう小さい弓形を新たにつくる.ついで同じようなぐあいにしてさらに広がっていく.こうして幹から3列ないし5列の動脈弓ができるが,この動脈弓はそれぞれ腸に近づくにつれて数は増加するが大きさは減少する.最後にいちばん小さい動脈弓からでる小枝が腸管の壁にはいり,そこで枝分れするのである.この強力に発達した3列ないし5列のアーチ型をした血管が腸の各部に対して平等にそして確実に血液を供給しまた血流を遅くすることになる.そのほかに多数の細い枝がでて小腸間膜の前後両葉を養い,またこの両葉のあいだにあるもの,特にリンパ節を養っている.

c)回結腸動脈A. iliocolica.この動脈は幹の凹側縁から出る最後の枝で,右下方にすすみ盲腸と回腸との合する所にいたる.動脈が腸に達する前に回腸枝と結腸枝の2本に分れている(図665).

α)回腸枝R. ilicusは回腸の末端部に向かっていて,上腸間膜動脈の幹の終りをなす部と結合して1つの弓をつくり,これが第1列のアーチに相当している.

β)結腸枝R. colicusは上方に向かっていて,そのすぐ上にある右側の枝と同じような結合をおこなう.この動脈弓の凸側縁から小腸の場合と同じようにその次の列となる動脈弓が始まるか,あるいはそれから直ちに小さな枝が出て回腸の末端,盲腸,上行結腸の初まりの部分を養っている.虫垂動脈A. appendicularisというかなり太い枝が虫垂に行く.

d)右結腸動脈A. colica dextra.これは腹膜の後を横にすすみ,上行結腸の中央部にいたり,その近くで上行枝と下行枝に分れる.これらの枝は近くの動脈と弓状につながり,その動脈弓から小さい新しい動脈弓がつくられるか,または直接に腸管壁にいたる枝が出る.

 右結腸動脈と回結腸動脈がしばしば1本の共通の幹をもって出ている.

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最終更新日13/02/03

 

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