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 この結合からしばしば閉鎖動脈が異常な起始をなしている(閉鎖動脈の項,618頁参照).この場合には普通の位置にある閉鎖動脈が非常に細くて上腹壁動脈の閉鎖枝が太くなっているのである.

b)挙睾筋動脈A. m. cremasteris(図673).細い動脈であって,内鼡径輪の近くで始まり,この輪を通るかあるいはいっそうしばしば特別の隙間を通って鼡径管に達し,精索に伴なって血液を挙睾筋および精索のその他の成分に供給しながら,下って精巣に達し,精管動脈および精巣動脈と吻合している.その外方への枝は陰嚢動脈と吻合する.女ではこれに相当するものが子宮鼡径索動脈A. chordae uteroinguinalis(子宮円靱帯動脈A. lig. teretis uteri)であって,これは子宮鼡径索と大陰唇の中に分布するのである.

 これらの比較的太い枝のほかに,下腹壁動脈の幹からは多数の筋枝が付近の諸筋に出ており,また皮枝も出ていてこの皮枝は腹直筋およびその筋膜を貫いて皮膚に達するが,その関係は内胸動脈の穿通枝と同じである(図647).また若干の小枝が尿膜管に沿って膀胱に達し,また肝鎌状間膜の中で肝臓にいたる.

2. 深腸骨回旋動脈Arteria circumflexa ilium profunda

 これは下腹壁動脈よりも細くて,鼡径靱帯の近くで内腸骨動脈の外側壁から出て腸骨筋膜と腹横筋膜のあいだを外側にすすんで前腸骨棘にいたり,ついで腸骨稜に沿って後方にすすむ.その経過のあいだに1本ないし2,3本の上行枝を腹筋群に出している(図647, 669, 674).

 これらの枝のうちの1本は腹壁の中で下腹壁動脈の少しく外側を上方に走っていて,外側腹壁動脈A. epigastrica lateralisとも名づけられており(Führer, H., Stiede)マックバーネイ点Mc. Burneyscher Punkt(前腸骨棘と臍とを結ぶ線の中点)において腹腔穿刺をするさいに注意を要するものである.

大腿動脈Arteria femoralis

 大腿動脈は外腸骨動脈の幹の続きをなして鼡径靱帯から大腿の遠位1/3にある内転筋管裂孔までの部分である(図673).そして全体としてだいたいに鼡径靱帯の中点から大腿骨の内側顆を結ぶ方向をとっている.

 局所解剖:大腿動脈の全長を3つの部分に分けている.その近位部は大腿筋膜の下で,縫工筋と長内転筋とのあいだにある大腿三角Trigonum femoraleというところにある.もっと正確にその位置をいうと,大腿三角の中でも腸腰筋と恥骨筋とのあいだにある腸恥窩Fossa iliopectineaというくぼみがその場所である.ここではこの動脈の搏動を容易に触れることができるし,また動脈を骨に向かって押しつけることもできる.--血管裂孔Lacuna vasorumにおけるこの動脈の位置については489頁および図591を参照されたい. 大腿三角の下端でこの動脈の中部が始まる.そこでは縫工筋が動脈の前にあり,この筋はここより下方では大腿動脈をほとんどその全長にわたって被っている.初めのところではただ皮膚,皮下組織,リンパ節および大腿筋膜がこの動脈を被い,また大腿血管鞘Vagina vasorum femoraliumが包んでいるが,それより下方ではこの動脈がもっと深いところにあって,よく保護された位置をとっている.ここでは縫工筋ばかりでなく広筋内転筋枝Lamina vastoadductoriaがその上にのっている.--第3の部分すなわち遠位部は大腿動脈が縫工筋の外側にあり,上に述べた内転筋管の約5cmの長さをもつ線維性の続きの中にある.この管の続きは大内転筋の腱と内側広筋の腱のあいだにあって,この両筋のあいだを連ねる線維性の条によって前を閉ざされている.この管の下端で大腿動脈はいわゆる内転筋管裂孔を通って大内転筋の腱の後にいたり,それからは大腿骨の後面で膝窩Fossa popliteaの上角にある.内転筋管には上と下の口があり,両方ともこの管に出入する血管によって閉ざされている(内転筋管,446頁参照).

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最終更新日13/02/03

 

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