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b)舌静脈Vv. linguales.舌静脈の分布はだいたい舌動脈のそれと同じであるが,枝の太さの関係が異なっている.またこれらの枝のすべてが合して1本の幹となっていることはまれである.

α. 舌背静脈Vv. dorsales linguae.これは2本または1本のかなり太い静脈で,舌のよく発達した静脈網から発している.この静脈網は主に舌背の背側部に力つよく広がって,側方は扁桃のところまで伸びている.舌背静脈は下顎後静脈に達する.

β. 舌下静脈V. sublingualis.たいていは太い静脈であって,舌骨舌筋の外側面を後方に走り,近くにある唾液腺からの枝や顎下腺管をとりまく静脈叢からの枝を受けとり,多くのばあい顔面静脈に開口している.1本の太い枝である舌下神経伴行静脈Vena comitans n. hypoglossiはその名前のごとく舌下神経に伴っている.

 舌静脈の何れかの枝が上方は咽頭静脈叢,下方は上甲状腺静脈とつながっている.舌静脈は単一の幹をもって,あるいは別々の幹で内頚静脈に開口するのが普通であるが,時として別々の幹をもって顔面静脈にはいっていることもある.

c)胸鎖乳突筋静脈V. sternocleidomastoideaは同名動脈とともに走り,しばしば上甲状腺静脈に開口している.

d)上甲状腺静脈Vv. thyreoideae craniales.この静脈は甲状腺の上部から出てほとんどま横に外側へ走って内頚静脈にいたる.その前にこの静脈の上部をなすものがなお上咽頭静脈V. laryngica cranialisを受けとるが,後者は喉頭の内部からの血液を集め舌骨甲状膜を貫いて外に出るのである.ときとして上喉頭静脈が直接に内頚静脈にはいっている.

e)顔面静脈V. facialis(図680, 681, 682).顔面静脈はその分布が外頚動脈の分布と大部分一致している.

下顎角のところで下顎後静脈を受けとる.頬筋の外面では深顔面静脈V. facialis profundaと頬筋静脈V. bucinatoriaによって2つの主な幹の間のつながりがある.顔面静脈の終りの部分はおよそ5mmの太さで,外頚動脈の外側を広頚筋だけに被われてその開口部に達する.

 この静脈は内眼角のところで前頭静脈と上眼静脈とが合流して眼角静脈V. angularis(図682)となって始まり,顔の側面上を斜めに走って咬筋の前縁に達する.

したがって顔面動脈と同じ方向を持つているが,うねらずにむしろひき延ばされた状態であり,動脈よりも後方に引つこんでいる.下顎の下縁で(そこに最初め弁がある)強く後方に曲り,顎下腺の被膜の上にのっていて,下顎後静脈を受けとるのである.

 次の諸枝が集まって顔面静脈を作っている.(図681, 682)

α. 前頭静脈Vv. frontales.内側前頭静脈は前頭部を斜めに鼻根に向かって下行し,上方で側頭静脈とつづいている.内側前頭静脈の最下部は他側の同名静脈とほとんど平行して走り,多くは横走する吻合をもってたがいにつながっている.ときには左右の内側前頭静脈が短い共通の幹をなしていて,鼻根のところでふたたび2本に分れている.この静脈は眉の付近と鼻背,および上眼瞼からの枝を受けとる.外側前頭静脈は側頭静脈とつながっている.

β. 眼角静脈V. angularis.これは顔面静脈の初まりの部分で,前頭静脈と同じく上眼静脈V. ophthalmica superiorの前端につづいている.しかし顔面の浅層の静脈血は上眼静脈の方には流れてゆかないで,後者の血液が顔面壁の静脈に流れるのである.眼角静脈はその初まりのところで何本かの上眼瞼静脈Vv. palpebrales superioresを受け入れる.

γ. 外鼻静脈Vv. nasales externae.鼻からやつ丁来て顔面静脈の内側に開口する.

δ. 下眼瞼静脈Vv. palpebrales inferiores.この静脈は下眼瞼の静脈叢からはじまり内側かつ下方に走って顔面静脈に注ぐ.

ε. 上唇静脈V. labialis maxillaris. 上唇からおこる.

ζ. 深顔面静脈V. facialis profunda.上顎骨の上を後から前に走って,翼突筋静脈叢を顔面静脈とつないでいる.頬筋静脈V. bucinatoriaは頬筋の上を走って,やはり翼突筋静脈叢を顔面静脈につないでいる.

η. 下唇静脈,咬筋静脈,耳下腺枝Vv. labialis mandibularis, massetericae, Rami parotidici.これらは口角の下方で顔面静脈の幹にはいる.

θ. オトガイ下静脈V. submentalis.これはかなり太い静脈であることが多く,オトガイの下ではじまって,口腔底の諸筋と舌下腺からの枝を受けとるが,しばしば顎下腺からの枝も受けており,下顎の下縁で顔面静脈に開口する.

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最終更新日12/01/15

 

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