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 これらのたがいに近接する静脈の間のつながりのほかに,多くの場所ではたがいにかなり遠くへだたっている静脈の間にもつながりがある.すなわち深層の静脈同志のあいだで,あるいはすでに述べたごとく深層のものと浅層のものとのつながりである.深層と浅層の静脈間のつながりは関節の近くで常によく発達しでいる.これはすべて上肢がさまざまな運動をするにさいして血流が阻止されないことに役だっている.

B. 腕と手の皮静脈

 上肢の皮静脈は深層の静脈よりもいっそう発達している.これは皮膚の静脈のみでなく浅い所にある諸筋からのいくつかの静脈を集めて,筋膜の穴を通ってかなり数多くの場所で深層の静脈とつながっている.これを手,前腕,上腕の皮静脈に分ける.

a)手の皮静脈(図687, 689)

 では浅層の静脈が手背において数も多くて太いが,手掌では痕跡的であり細い.掌側ではほかの装置,つまり神経が特によく発達しているのである.したがって手に神経側Nerwenseiteと血管側Gefäßseiteを区別することができる.手の掌側面は圧力を多く受けるので,そのうちの1つの装置(神経)だけの発達には好都合であるが,もう1つの装置(静脈)の形成には都合がわるい.そのため指と中手と手根の背側には豊富な静脈網が広がっており,これを手背静脈網Rete venosum dorsale manusという.

 指の背面の静脈網では各指に主な流れの方向を示す2本の縦の小幹が多少ともはっきりと認められるが,これが指の背側の側副静脈dorsale Kollateralvenenである.これは爪床にある密な静脈網から始まって,指の縁に沿って近位にすすんでいる.それゆえ橈側と尺側の指背の側副静脈があることになる.1本の指に属する側副静脈はその途中で多数の吻合枝をたがいに出し合っているが,この吻合枝は特に指節の中央部にあって,そこできれいな網を形成している.これが指背静脈網Rete dorsale digitorum manusである.

 中手に達するとたがいに向き合った指の縁を走ってきたそれぞれ1本の梶側と尺側の側副静脈が合して近位に向う1本の小幹,背側中手静脈V. metacarpica dorsalisとなっている.第1指の橈側側副静脈と第5指の尺側側副静脈は中手の縁の静脈としてそのまま縦走を続けてゆく.これら2本の静脈とそのほかの背側中手静脈はたがいに細かい静脈網によってつながっている.

 すでに中手の範囲で縦走する静脈がいっそう集合しはじめる.指の浅層では主な縦走の静脈が10本あったが,中手ではそれが6本ないし7本の縦の道に減じている.さらにこれらが2本から3本のいっそう太い縦の静脈に集まり,前腕に移行する.その集合する形は非常にいろいろなぐあいになっている.しばしば第2背側中手静脈がもっとも短くて,ただちに橈側と尺側のそれぞれ1枝に分れる.この2本が橈側と尺側にたがいに別れつつ近位にすすみ,次第にほかの縦走する中手静脈を受けとり,遠位に向かって凸の1つの大きい弓形を画く.この部分を手背静脈弓Arcus venosus dorsalis manusという.第1背側中手静脈はまた母指橈側皮静脈V. cephalica pollicisという特別な名をもっており,それに対して第4背側中手静脈は手背静脈V. salvatellaという名をもっている.手背静脈に手背静脈弓の尺側脚が注ぎ,母指橈側皮静脈には後者の梶側脚が注いでいる.このようにして太くなった手背静脈が前腕へ移行して尺側皮静脈V. basilicaという名前になり,また太くなった母指橈側皮静脈が橈側皮静脈V. cephalicaという名前となる.また一部は中央の幹である前腕正中静脈V. mediana antebrachiiとなる.

b) 前腕と上腕の皮静脈(図687, 689)

 上にあげた3本の縦走する前腕の静脈,すなわち橈側皮静脈V. cephalica,尺側皮静脈V. basilica,肘正中皮静脈V. mediana cubitiのうち,前者は前腕の外側縁に,中の者は前腕の内側縁に沿っており,後者は屈側の中央部を上方にすすんでいる.

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最終更新日13/02/03

 

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